誰かのために

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カランコロン



「マスター、久しぶり!」

「開店おめでとー!」


「おぉ、みんな、ありがとね。」

この街唯一の喫茶店、「キャンパス」
もっと街のみんなが集まることができる場所にしたい、というマスターの願いから
この春より改装工事をしていたらしい。
そして今日、改装工事を終え新しくオープンする。

2日前、私の家のポストにも開店しますという手作りのハガキが入っており、
みんなもやっとかぁなんていいながら楽しみにしているようだった。

お店の雰囲気は落ち着いていて、マスターもすごく優しそう。
いつものようにみんなで待ち合わせして他愛のない話をしながら歩いてきた。
ここに来るまで、ここのケーキめちゃくちゃうまいねんでってまーちゅんが力説してくれたから、私も来るのがとても楽しみだった。

「にしても、綺麗になったなぁ」

「でも、相変わらず狭いんやな」

「広さばっかりはどうしようもなかったわ。でも席は増やしたからな。
あ、これからは喫茶店ちゃうで、カフェって呼ぶんやで。」

「ふはっ!何が違うんそれ!」

「おしゃれやろ?」

「あははっ」



店内はカウンター席10席と、窓際のボックス席1つのみ。
きっと、カウンターに座る人の方が多いんやな。
1人席や個別のカウンター席が多い都会との違い。こういったところでもこの街の暖かさが見て取れる。


「あら、みんないらっしゃい。」

「あかりさん!」

「エプロン姿…かわええ…」

「ちょっとまーちゅん。」

岸野先生があかりさんと婚約してこの街に来てからあかりさんはこの喫茶店…じゃなくてカフェで働くことになっていた。

働き口を探すあかりさんにマスターが声をかけたのだ。
エプロンをつけたあかりさんはいかにも、綺麗で可愛い看板娘、といった感じで
あかりさんのかわいさに開店前から噂が立っていたからきっと繁盛するはずだ。

「せっかく来てくれたんだからコーヒー淹れるで。座って座って」

マスターにそう言われて私たちは唯一のボックス席に少し詰めて座った。

「うわぁ…ほんまに可愛い…」

相変わらずあかりさんをみてニヤニヤしているまーちゅん。

りぽぽはそんなまーちゅんを睨むように見ている。
りぽぽはわかりやすいというか、まーちゅんが鈍感というか…
そして、あいなさんは2人を交互に見て、やれやれという表情をした。

そういえば、今日はさやかちゃんがおとなしいような…

隣に座っているさやかちゃんを見るとなんだかソワソワと落ち着かない様子。
どうしたんやろ?

「おまたせー」

店長がケーキを持ってきてくれた。
ガトーショコラで、見た目からしっとりさが伝わってくる。他に飾りはなくてシンプルなんだけど、それだけでも輝いて見えた。

一口含むと口に広がるちょうどいい甘さ。
なるほど、これくらいの甘さならさやかちゃんも好んで食べるわけだ。

「ん…!美味しい!」

そう呟くと、そうやろ〜って、まーちゅんは店長さんよりも得意気だった。

久しぶりの味だね、店長も腕落ちてないね、なんて皆でガトーショコラを食べていると

「こほん」

さやかちゃんが突然咳払いをしたから、
シン、、と静まった。
みんながさやかちゃんに注目する。
私も何だろう、とさやかちゃんの方を向く。

「どしたん?さや姉」

「何?何?」

「えー…と」

さやかちゃんは深呼吸をした。
そして、ちらりと私の方を見て

「みゆきと、、その、付き合うことになった。」

「へ?」

思いもしない言葉に、変な声が出ちゃった。
突然のことに顔に熱が集まるのを感じる。

え、、今いう?
もしかして、今日やけに静かだったのはそのせい?

みんなもキョトン、とした顔でさやかちゃんを見ていた。

「…」

沈黙が流れる。
さやかちゃんは少し、不安そうだった。

「…なんや、やっとかぁ…」

沈黙を破ったのはななちゃんだった。
ななちゃんの一言で緊張が解けたようにみんな口々に声を出す。

「気づかれてないとでも?」

「いつまで待たせるねん。」

「まぁ、良かったやん振られんで。」

なんかと思ったわー!って騒ぐみんな。さやかちゃんは1人ぽかんとしていた。

「は…気づいてた…?」

「恋についてはめっちゃくちゃ分かりやすいからなぁ、さや姉は。」

「、、あいなも?」

「うん。なんならお母さんも言ってたで。」

「うわ…はず、、」

袖で顔を隠してしまったさやかちゃん。

でも、おめでとうって言ってくれるみんなに照れながらもありがとうって言っていた。

「みゆきちゃん泣かせんなよ〜」

っていうまーちゅんにお前がいうなってみんなが突っ込む。

前に座っていたあいなさんと目が合うと、口パクでありがとう、とそう言われた。
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