さよならの向こう側

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「夢莉、お誕生日、おめでとう」

「おめでとう」

「うん、ありがとう」

今日は私の18歳の誕生日だった。

秋を通り過ぎ
寒さが身にしみてくる季節。

おじさん、おばさんは毎年こうしてケーキを買ってきてくれた。

「おいしいよ」

「ふふ、良かった」

「…いつもありがとう」

そう言うと、2人はにこやかに微笑んだ。
少しくすぐったいけど、感謝しているのは嘘じゃない。


私に両親はいない。
私が小学生に上がる前に事故で死んだ。
私が理解できたのは、少し先で
お父さんとお母さんにもう会えないと分かったときは、
買ってもらったランドセルが嫌いになるくらいにはショックを受けた。

でも、私にはお姉ちゃんがいた。
何歳年上だったか、それすらも覚えていないが、10歳近くは離れていた気がする。
私にとってお姉ちゃんは、優しくて、カッコいい、自慢のお姉ちゃんだった。
友達には、あんたのおねえちゃんってヤンキーなん?って聞かれることが多かったけど。

両親が死んだ後、私とお姉ちゃんは、お母さんのお姉さんのところに引き取られた。

だけど、お姉ちゃんは、両親が死んだ3年後、姿を消した。

お姉ちゃんがいなくなるちょっと前
あんなに優しくて大好きだったお姉ちゃんは、私に罵声を浴びせ、無視するようになった。
もう顔も思い出せないのに、その時のお姉ちゃんの怖さは忘れられなかった。



私はその時から1人になった。



でも、別に平気だった。
友だちも居たし、おじさん、おばさんも私を可愛がって、本当の子どもように育ててくれたから。
今では、お姉ちゃんは、両親が死んだショックで不良になって、どっかいったんだろう。まぁそうなる気持ちもわからんでもない。
それくらいに思っている。

ただ、あんなに優しかったおねえちゃんが冷たくなってしまって
私を捨てて出て行ったという、悲しい気持ちも否めないが。



「引っ越しの準備進んでる?」

「うん。そんなに荷物多くないし。」

「そう。明日はおばさんも手伝うからね。」

「うん、ありがとう。」

私は次の春から、就職が決まっていた。

私には夢もないし、特にやりたいことがなかった。

おじさんとおばさんは、進学しても構わないと言ってくれたが、
進学してまで勉強する気が起きなくて、結局就職の道を選んだ。

やりたいことがないのにもったいない。
それくらいなら、早く仕事に就いて、おじさんとおばさんに恩返しをしたい。

そう考えた選択だった。

この実家から離れた場所での勤務となったため、今は引っ越しの準備をしている。



「さむ…」

暖かかったリビングから戻った部屋は、
ひんやりと冷たかった。

動いたら暖まるだろう。

そう思い、荷造りの終わった段ボールを隅に運ぶ。

「おっきな部屋だったな。」

少し片付いた部屋を見渡し、改めて感じる。
1人で使うには大きな部屋だった。

こんな小娘にありがたいありがたいと思いながら押入れを開けた。

「今日はここを片付けよう。」


この押し入れの中は、おばさんが整理してくれていた場所だった。

私の小学校の作品とか、中学校の成績とか
懐かしいものがたくさん入っている。

小学校の成績表かこれ。こんな雑な3段階評定やったっけ。
もう、あまり思い出せない小学校の思い出

今ならもうちょっとやる気出して勉強したのに。とか思いつつ、点数の悪いテスト用紙をゴミ袋にぶち込んだ。

一通りダンボールを出しきった後、

「ん?」

奥の方に雰囲気の違うダンボールがあるのが見えた。

今までのダンボールは、おばさんがこまめに何が入っているのか書いてくれていたのに、
これだけは何も書いていない

それに周りのものよりもずいぶんと古びていた

「なんだこれ。っ、うわ、重いし。」

奥から引きずり出してみる。

恐る恐る蓋を開けると、カビ臭い匂いが鼻をかすめた。


「これ…」


そこに入っていたのは、
小さい頃に遊んだ人形、保育園の時に使っていた鞄。気に入っていた帽子。

お父さん、お母さん、そしてお姉ちゃんとの思い出のものだった。

「…こんなの、あったんだ。」

記憶の中にあるものや、
初めて見るものもあったけど、どれも懐かしさを感じた。

「機械?これ。」

奥底の方に、黒いコードが見えた。
引っ張ってみると、コンセントに繋ぐケーブル。

「なんだろ。」

ちょっとワクワクしながら底を漁る。

出てきたのは、大きめのビデオカメラと、そのビデオカメラ用だと思われる小さなテープが数個だった。

「ビデオカメラテープなんて初めて見た。」

テープには、父親の字だろうか、角ばった字で、日付と一緒に内容が書かれていた。

“彩のお遊戯会”

“彩の運動会”

“夢莉が生まれた日”

“夢莉の誕生日パーティー”

どうやら、特別な日を撮ったビデオのようだ。

「彩…さやかって、こんな漢字書くんだ。」

名前は覚えていたけど
幼い私は姉の漢字を知らなかった。

これ、まだ使えるのかな。

コードと一緒にビデオカメラを取り出す。

「バッテリーついてる」

どうやら充電式のようだ。
コードを繋いでしばらく

ピコン

「お、電源入った」

使えるやん。
私の誕生日の映像でもみてみようかな、

と、内側をいじっていると、

「あれ?テープ入ってる。」

カチャリと開いたそこには、既にテープが入っていた。

撮りかけのテープが気になって、
再生ボタンを押してみる。



「…」


チッチッチッ

やけに部屋に響く時計の音


(…えー…あ、うん、コホン。)


お母さんではない、お父さんでもない。
女性の声がする。
カメラの位置取りがうまくいっておらず、
肩から下しか映っていない。


(夢莉)


お、姉ちゃん…?


(夢莉、ごめんな。

お姉ちゃんはな、、
ずっと、夢莉が幸せであることを願ってる。

…じゃあな。

、、ちゃんと撮れたかな。
まぁええか。)


「…なに、、これ。」

ドクンドクン

波打つ心臓がうるさい。

時計の針はもうすぐ12時を指す頃だった。
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