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「それで、男が追ってきたが、あなたは失神してしまって気づいたときにはもういなかった、と」
「はい…」
「ありがとうございました。とても怖い思いをされましたね、私たちが家までお送りします。」
「はい、、」
警察署では、根掘り葉掘り色々なことを聞かれた。
恐怖で震える私をフォローしながら、警察官の焦りも見えた。
「み…みる…みるきー…みるきー!」
「ん…」
ななちゃんの声がして起きたとき、
男の姿、そして山本さんの姿もそこにはなかった。
代わりに周りには多くの警察官がいた。
「よかった〜!!大丈夫?!」
ななちゃんは心底心配してくれたのか、
泣きそうな顔だった。
「う、うん」
「警察です。お怪我はありませんか。」
「はい、多分、、あ…」
私の上に置かれた制服のブレザー
そのブレザーには『山本』という名札がついていた。
夢…じゃなかった。
そして私とななちゃんはそのまま警察署に行き状況を説明した。
あいなさんは、山本さんを探しに行ったらしい。
「でもみるきー、よう無事やったなぁ、、。ほんまによかった…」
「うん…」
綺麗な黒い翼
ごめんという言葉
私が無事な理由はななちゃんにも警察の人にも言わなかった。
いや、言ってはいけないと思った。
翌日、私は学校に普段通り登校したが、予想通りというか、山本さんは休みだった。
「みるき〜」
「ななちゃん」
「今日あいな休みやってん。大丈夫かなぁ」
あいなさんもきてないんだ。
私の脳裏には、山本さんのあの苦しそうで悲しそうな表情がこびり付いて離れなかった。
ーーーーーーーーーーー
「くそっ、、どこ行ったんや」
ななを連れて夢中に走っていると、後ろからみるきーたちが来ていないとななが焦った声を出した。
ななを連れて引き返すか…?仕方ない、最悪、力を使えばええ
そう思ってななを連れてさっきの場所に戻ると救急車や警察車両が来ていたが、サヤカとみるきーの姿は無かった。
「っ…」
一瞬だったがかすかなサヤカの気配を感じた。まさかあいつ…
「…こっちや」
2人で手を繋いだまま、細い路地を入って恐る恐る歩く。
「みるきー!!」
そこには壁にもたれて眠るみるきーの姿があった。
サヤカとあの男の姿はない。
「なな、警察に電話して来てもらうんや。私はさやかを探してくる。」
「うん、、」
不安そうにこっちを見るななに微笑んで
最悪な事態になってないことを祈りながら駆け出した。
もう、日は落ちて、街の灯りが灯る頃
私はようやくサヤカを見つけた。
「はぁ、はぁ、サヤカ…」
「アイナか」
サヤカは少し離れたビルの屋上にいた。
「逃してもうたわ」
「そうか…」
その言葉を最後にお互い、無言になる。
「…見られたんか?」
「、、仕方なかった。あいつを守るにはそれしかなかった。じきに話題になるやろ…大ごとになる前にここから離れる。」
サヤカはすっと立ってこちらを見下ろした。
その顔はとても冷たく感じた。
「あいな!」
「おぉ、ごめんな?心配かけて」
「ううん、さやかは?」
「あ、、うん。大丈夫なんやけど、体調崩してな。」
「そうなんや…」
あれからサヤカは、家に帰ってこなかった。
リカとアカリが心配して、どこにいるか能力を使って探してくれているが、色々なところを転々としているらしく、全然会えないと嘆いていた。
「山本さん、大丈夫なんですか?」
「みるきー…うん、大丈夫やで。」
みるきーは安心したようにため息をついた。
確かにサヤカは"見られた”と言ったが、みるきーにそんなそぶりは全くない。
夢か何かと思ってるのだろうか、それとも。
私は少しの希望を持ってみるきーを呼んだ。
「みるきー、、」
「珍しいですね?あいなさんが私と話したいって。」
みるきーはいつものようなニコニコとした笑顔だった。
「…ごめん、単刀直入に聞くな?」
「山本さん、のことですよね?」
みるきーは急に真剣な目になって察したように自ら尋ねてきた。
「あ、うん…」
「大丈夫です。誰にも言うてませんから。」
そう言うみるきーの顔は、なぜかちょっと悲しそうだった。