もしもあの日に戻れたならば

□6〜10
1ページ/5ページ




  6





私が入部したのは、負ければ3年生は引退となるインハイ予選の地区大会前だった。

そもそも、人数がおらず試合に出られなかっただけのチームで、みんな練習熱心だし、上手だ。

地区大会までは3週間。
思い通りに動く体が気持ちよく
私は本当に高校生に戻ったように部活に打ち込んだ。


一回戦のパッキンを難なく勝ち上がり、
二回戦で強豪を倒した私たちは注目された。


そして、危なげなく県総体への切符を手にした。


「彩さんが居てくれてほんまによかったですね。」

「私のバスケ人生が少し延びたわ」

「もっと延ばしましょう!」

「まぁ、次も頑張ろうや。」

「彩さんが言うといける気がします!」

「彩〜、コンビニ寄って帰ろ」

「おー」

「じゃ、また練習で。」


他の部員と別れて、方向が一緒の美瑠と2人になる。

部活を始めてから美瑠とこうして一緒に帰ることが多かった。

あれから、みゆきから連絡は一切ないし、
私も連絡していない。

気にならないわけはないけど、美瑠にもみゆきのことは聞けなかった。

「ガリガリくんにすんねん。」

「おー、ええな。私もそうしよ。」

「あ、お姉ちゃん!」

「え」

お姉…ちゃん…?

美瑠の目線の先、
コンビニのガラスの向こうには、

紛れもない、みゆきの姿があった。


…やっば。


みゆきもこちらに気づいたようで、
こちらを向いた。

「なぁ、あれな、私のお姉ちゃん!」

「あ、ちょ、ト、トイレ…」

いい終わる前に、美瑠は私の腕を掴んで、
みゆきの方へどんどん進んでいく

やばいやばいやばい

押しに弱い私はされるがまま、俯くことしかできない。


「美瑠、何してんの?試合終わった?」

みゆきの声がする。

「うん。帰り道。」

「あれ、その子…は?」

「あ、最近転校して来た彩っていうねん!」

「あぁ、バスケ部に入ってくれたっていう?
あや、ちゃん?」

私は恐る恐る顔をあげた。

「…えっと、はじめまして。やまだ、、あやです。」

みゆきと視線がぶつかる。


みゆきは少し目を見開いた後、優しく微笑んだ。

「そう、あやちゃん。美瑠の姉の美優紀です。美瑠をよろしくね。」

「はい。」


久しぶりに見た美優紀は、綺麗だった。




次の週のことだった。

「え、企業がですか?」

「そう、是非うちにって。」


私の元に、企業からのお誘いが来たのだ。

これには心底驚いた。
普通、無名の選手がたった一回、地区大会で活躍したくらいでスカウトするか?

不思議に思ったが、地元で有名なその企業は、地元の選手を使いたく、先日の地区大会の偵察に来ていたそう。

「あ、、保留で、お願いします。」

「そうやな。進学希望やったもんな。引退までには返事が欲しいってことやったから。あと少し、悩むんやで。」

「はい。」

いや、はい、とは言ったものの
私は戸籍上別人。
そういうの大丈夫なんかな?ってかそれ以前に今までの私はどうなるんだろう?

この姿になってもう2ヶ月近く経つ

私の姿が戻る気配はない。

最近はこのまま、別の人生を歩むのではないかと考えることもあった。

あの時と同じ状況や。

人生の岐路だった、高校のあの時と。


「実業団?さすがさやかやな!すごいやん。」

「いや、まぁそうなんやけど。あとな、みゆきに会ってん。」

「え!みるきーに会うたんや。」

「うん。」

「ばれへんかった?」

「うん、たぶん。…あのさ、山田、みゆきと連絡とってる?」

「んー…とってないこともないけど、さやかの話は一切出てこない。」

「だよなぁ…」

高校生活にすっかり慣れ、順風満帆な生活を送る新しい私。

もういっそこのまま…

私は、本当にあの選択を後悔していた?

「くそ、分からん。」

その日、答えは、出なかった。
次へ
前の章へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ