シリーズ短編集

□大学生シリーズ(syml)
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  花火



今年、大学生になって初めての夏を迎える。
大学のためにこの街に越して来て不安だったけど、
一人暮らしも割とどうにかなってて、
友達もそこそこできて大学生活をエンジョイしている。
そして今日は街1番の花火大会の日だ。友達の中で女子力高めのポジションにいる私は朝から他の子のお化粧、髪型そして着付けに大忙しだった。
自分のことをようやく終えたのは出る5分前。まぁみんな可愛くできたし満足ではあるけど。
感謝されるのも悪くないしね。

会場までは歩いて向かう。
ここの花火は湖上で行う日本一の花火らしく、人の量はそこそこ多い。大学近くに住む私たちが歩いて向かうのには割と時間がかかって、下駄に慣れてない私たちはひーひー言いながら歩いた。
会場に着くと屋台を回る。
いつものグループ5人で来てた私たちは場所取り2人と買い出し3人に分かれることにした。私は買い出し班に。

「じゃ、よろしく〜」

その3人もそれぞれ別の種類の屋台に並ぶことに。
私はフライドポテトに並んだ。
正直、お祭りのフライドポテトって美味しくない。しなしなしてて塩っからすぎて油っぽくて。そんなことを考えながら行列を待つ。

「よし、帰ろー」

やっと自分の番が来て、人数分ポテトを買って帰ろうと思い側の人の裾を掴む。

「ん?」

少し上から聞こえて来た声は友達の声じゃなくて。
あ、そうだった1人で並んでるんだった。焦ってその人を見る。

「?」

目を奪われるってこういうことを言うねんな。ばっと目があったその人。
まるでそこに私とその人しかいないような感覚に陥る。

「どうしたん?」

声をかけられて我に帰る。

「友達とはぐれた?」

「い、いえ。すみません。間違えました。」

間違えましたって何をやねん。自分につっこみながら友達に連絡を取ろうと荷物を漁る。
あれ…携帯がない。

「ふふ。面白い子やな。友達、一緒に探したろか。」

「え。いや、大丈夫です。はい。」

親切に声までかけてくれたと言うのに、なんなんこの返答は。いつもの私はどこいってん。
なんか、この人の前では素直になれずにぶっきらぼうになっちゃう。

「携帯、忘れたんちゃうん?丁度、私も迷子やねん。」

こっちを見てにーって笑うその人は私の手を自然に取って人混みの中を駆け出した。
後ろでその人の友達と思われる人の焦った声が聞こえる。

迷子なんて嘘やんか…。

人混みをかき分ける横顔しか見えないけど、少し強く握られた手に熱がこもる。

柄にもなく照れてるって自覚すると余計に恥ずかしくなる。

私は抵抗するわけでもなく、素直に連れ去られて行くと、あっという間に人混みを抜け、人が少ない場所に出た。
この辺のこと、よく知ってる人なんかな。

「ごめんな、急に走って。」

「いえ、ありがとうございます。」

ふふふっと笑うその人は少し頬を赤く染めながら私の手を握りなおした。

心臓がドクドクと音を立てる。

ゆっくりと湖畔を歩きながらその人は話をしてくれた。
同じ大学の一つ上の先輩。今日は友達と来てたってこと、そして

「さやか…さん」

彩るって書いてさやかさんと言う名前。

「みゆき」

さらっと呼ばれて緊張してしまう。

「なぁ、どうせ、友達みつからんやろ。この人混みじゃ。一緒に見てくれん?花火。」

そう言うさやかさんの顔は歩いて火照ってるのか、それとも照れてるのか、ほんのり赤かった。

「さやかさんがよければ。」

「さやかさん、やなくてさ、さやかちゃんって呼んでや。」

「先輩なのに…」

「学年は上やけど、学部も違うし直属の後輩ってわけやないし…
ほら、好きな人にはちゃん付けで呼ばれたいねん。」

好きな人…
それを聞いて胸が高鳴る。さっき出会ったばかりの人にそんなことを言われるなんて。

「実はなあんたのことしっててん。」

「え?」

「入学のオリエンテーションのとき、なんかの拍子であんたを見てな、そん時から気になってたんよ。まさか今日こんなになるとは思ってなかったけど。」

私の好きな人と言われたことの戸惑いが出ていたのだろうか。さやかさんは少し早口で喋った。
そんなこと、あるのかな。
でも、隣の先輩を見ると頬をぽりぽり掻いていて嘘はつけそうにない雰囲気。さっきの腕をつかんでくれた勢いはどこへやら。

「私もな、さっき初めて目があった時、ドキッとしたで。な?さやかちゃん?」

「っ」

そう呼んであげれば、わかりやすいくらい動揺する。
なんや、かわええ人。いつもの私に戻って来たわ。

「一緒に、花火みましょ」

そう言って腕を絡めると、さやかちゃんの鼓動が伝わってくるようで心地よかった。

「みゆき…」

「なに?さやかちゃん。」

「いや、なんでもないわ。」

さっきまで自分から腕組んだり、好きな人とか言ってたくせに急に照れ出すさやかちゃん。そんなところを可愛いと思っちゃってる私も私だけど。
でも、こんなに照れ屋さんなら…先が思いやられるなぁなんて次の想像をしながら花火に照らされるさやかちゃんの横顔を見ていた。




それから、2人が付き合いだしたのはもう少し後のこと。
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