雛見沢村・六軒島短編
□翻弄
1ページ/5ページ
詩音side
葛「本家での集まりはどうでしたか?」
詩「どうもこうも…さっさと帰りたくて仕方がないだけでしたよ。まぁ、予定より早く帰れて良かったですけど。」
興宮へ帰る道中、葛西へ愚痴をこぼす。
堅苦しい集まりはどうにも慣れない。
しかも、そういうときのお姉は当主モードだから尚更面白くない。
詩「はぁ…、早く家に…ん?」
興宮に入り、何気なく窓の外を眺めていると蕾亜さんが何やら数人の女性に囲まれているのを見つけた。
詩「葛西、停めて!」
葛「えっ!?」
戸惑いながらも、路肩に停車してくれた。
そのまま私は車を降りる。
詩「ごめん!ここからは歩いて帰るから!」
葛「詩音さん!?」
引き止める葛西の声を無視して、今来た道を急いで戻る。
「少しだけ、私たちとお茶してもらえないですか?」
『すみません、他を当たってください。』
「本当に少しだけでいいんですけど…。」
『無理です。』
所謂、ナンパというやつだろうか。
見たところ、観光に来た女性グループのようだ。
冷たく断られても、都会の女性は強いらしく一向に引く気配がない。
全く…モテる恋人を持つと大変ですね…。
詩「蕾亜さん?」
にこにこと手を振りながら声を掛けると、その場にいた全員がこちらに振り向く。
うん、絶対に睨まれてますよね私(笑)
というか、その人は私の恋人ですし睨まれる筋合いないんですけど。
『あれ、詩音?今日は本家で集まりだったんじゃ…。』
詩「えぇ、ですが早く終わりましたので。家に帰ろうとしてたら、車から蕾亜さんの姿が見えたので来ちゃいました。」
『そっか…お疲れ様。』
にっこりと優しい笑みを向けてくれる。
先程までの冷たい表情とは大違い。
この笑顔を向けてもらえるのは、恋人の特権ですね。
ちょいちょいと手招きをされたので近づくと、不意に腕を引かれた。
詩「蕾亜さ、んっ…!」
『私、自分の彼女にしか興味無いので。』
蕾亜さんは大胆にも声を掛けてきた女性たちに見せつけるようにキスをしてきた。
顔を赤くして固まっている女性たちを置いて、そのまま私の手を引き歩き始める。
詩「ちょ、蕾亜さん何考えてるんですか!?あんな人前で!」
『だって、あの人たちしつこかったし。ああするのが一番手っ取り早かったんだけど、ダメだった?』
詩「ダメではないですけど…。」
正直、ダメではない。
むしろ、私にしか興味無いと断言してくれてあの行動に出てくれたのは嬉しいと思う。
だけど、めちゃくちゃ恥ずかしい。
詩「それにしても、蕾亜さんは本当にモテますよね〜。」
『そんなことないと思うけど。なに、ヤキモチ?』
詩「べっつに〜!全然そんなことないです〜!」
べーと舌を出す。
繋いでいる手を恋人繋ぎにしてぎゅっと握られる。
『私は詩音さえ居てくれればそれでいいの。』
詩「ほんと…サラッとそういうこと言いますよね。東京にいた頃は何人の女の子を泣かせてきたのやら。」
『あれ、言ってなかったっけ?私、誰かと付き合ったりするの詩音が初めてだよ?』
いやいやいや、絶対にそんなはずは無い。
だって、このルックスにこの優しい性格で恋人がいなかったわけがない。
『顔に信じられないって書いてあるけど。』
詩「えぇ、信じられません。」
『即答だね…。って言われても、本当だし。私さ、他人に興味無いから恋愛感情とか全然湧かなかったんだよね。それ故に、友達も少なかったかなー?だから、誰かと付き合ったりって無かったの。』
まぁそれが今ではこんな可愛い彼女がいるわけだけど、と笑っている。
詩「でも、モテましたよね?」
『いや、全然?』
詩「呼び出されて告白されたことは?」
『あー、何回かあるかも…。けど、その何回かで面倒くさくなって後はほとんどスルーしてたかな…。』
詩「手紙を貰ったことは?」
『それもあったな…。毎日勘弁してほしいよね…。』
詩「めちゃくちゃモテてるじゃないですか。」
そうこう話しているうちに、私の住んでいるマンションに着いた。
鍵を開けて部屋に入る。
詩「昨日だって、一昨日だって、違う学部の女の子から食事に誘われたこと知ってるんですからね?」
『詩音…。』
ふん!とちょっぴり拗ねてそっぽを向くと、左手が頬に添えられ、優しくキスをされる。
あぁ、私を愛おしそうに見つめる目が好き…ちゃんと愛情表現をしてくれるところが好き…全てを包み込んでくれる優しいところが好き…私にだけ見せてくれる笑顔が好き…私を呼ぶ声が好き…蕾亜さんの全部が大好き…。
私をこんなにも翻弄するのは、後にも先にもこの人だけだろう。
首に腕を回すと、横抱きにされベッドへ移動する。
降ろされると、私は自ら蕾亜さんにキスをしながら後ろに倒れ込む。
首に腕を回したままなので、蕾亜さんは私に覆い被さるように倒れた。
『ふふっ、まだ明るいのに随分と積極的だね?』
詩「蕾亜さんの目に私しか映らないようにしようかと思いまして。」
『とっくに詩音しか見えてないよ。』
蕾亜さんはそう言って笑うと、私に優しくて深いキスを落とした。