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□エレベーターにて。
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『お疲れ様でーす』



局の警備員さんに挨拶をし、私は建物内に入り込んだ。
今日はここのテレビ局で顔合わせがある。とても重要な日なので、珍しく朝から気合が入っている。

ちょうどエレベーターロビーに着いた時に上階へ向かうエレベーターが到着したので、サッと乗り込む。顔合わせの場所は15階だ。

目的の階のボタンを押した時…。


「すいません、乗ります」


足早に同じエレベーターに乗ってきた人物が1人。


『あ…れ?…りんたろーさん?』
「えっ。あ、名無しさんじゃん」


それは今をときめくお笑い第7世代のメンバー、EXITのりんたろー。さんだった。
深く帽子をかぶって黒いマスクをしているが、すぐに彼だとわかった。


エレベーターが閉じ、中には私たち2人のみになった。


『何階ですか?』
「15」
『あっ一緒ですね』
「ほんと?偶然。打ち合わせ的な?」
『そうです』


さっと15階のボタンを押す。
エレベーターは動き出し、私とりんたろーさんは隣同士で立つ。


「なんか久しぶりだね」
『ですね!あ、昨日のロンハー見ましたよ』
「え?!あの恥ずかしい回?!」
『はい笑』
「いやアレは正直見なくて良いわ…俺見れなかったもん…」
『録画したんでまた今日見ますね』
「まじでやめて?見なくていー回だからアレはほんとに」


相当恥ずかしかったらしい。
でも私は面白かった。


『あ、あと爪が可愛かったです!』


昨日のOAで、彼が可愛らしい爪をしていたのを思い出して思わずりんたろーさんの手をパッと見る。
やっぱり、今日も可愛い爪をしている。


『あ、今日も可愛い!』
「爪ねー、今日もやってるよ」


そう言ってりんたろーさんは手を広げて爪をよく見せてくれた。


『すごーい。え、自分でやってます?』
「大体ネイリストさんにお願いするけど、今日のは自分でやってる」
『すっごい器用ですね…!』
「でしょ?」
『ちょっともっとよく見ていいですか?』
「え?」


私はりんたろーさんの返事を待たずに、彼の指を両手で包んだ。



『わー…じっくり見ると緻密〜…』


親指から小指まで、キッチリとりんたろーさんらしいカラーで仕上がっている。とても可愛らしく、彼によく似合ってると思う。


『このギラッギラした色、素敵…』
「…」
『小指まで繊細〜』
「…」
『ここの星のモチーフ綺麗』
「…」
『てか、りんたろーさん手が綺麗ですね!とっても!』
「…あ、あの名無しさん、」
『ん?』


パッと顔を上げると、そこには少し恥ずかしそうなりんたろーさん。
そして、同時にエレベーターが15階につき、扉が開いた。


「…え?なに手ぇ繋いでんの?」

「『え?』」


扉の向こうには、エレベーターを待っていたであろうEXITのもう1人のメンバー、兼近さんが。
不思議そうな顔をして固まり、私達の繋がれた手をじっと見つめた。


『あっやっ、違くてっ』
「違う違う、その、えーと」


急いで手を離してしどろもどろになる私達。


「あーはいはいはいはい、」


なぜか兼近さんはニヤニヤしながら戸惑う私達を遮った。


「なるほどね。そーゆーことね。はいはいはい」
『えっな、何が』
「デキてんのね?はいはい」
「いや、だから違くて!」


変な勘違いをした兼近さんは、グイッと私達の間を縫ってエレベーターに乗ってきた。


「2人のことは内緒にしとくから」
『だから違うんですって!』
「はいはい。お二人さん、とっとと降りて降りて。ここで降りるんでしょ?」


兼近さんに促されるまま、私達はエレベーターを降りた。

「え、お前はどこ行くの?!」
「忘れもんしたんで下に行きまーす。お二人さん、邪魔して悪かったね」


兼近さんがそう言うとエレベーターの扉が閉まり、下の階へと動き出していった。

残された2人の間に気まずい空気が流れる。


『ご…ごめんなさい、変な誤解を…』
「いやいや、名無しさんは何も悪くないから!あとで俺がしっかり誤解解いておくし」
『は、はい…』


まだ気まずい雰囲気の中、2人は廊下をゆっくり歩き出した。


ああもう、私のバカ。
よくよく考えたら、人の手を不躾にベタベタ触るなんて失礼だよね。
りんたろーさんだってこだわってネイルしてるわけだし、、それを他人に勝手に触られるなんて気分悪いに決まってるじゃん。
あー嫌われたかも。さいあく。


『はあ…』


ついついため息がでてしまう。
自分の身勝手な行動に嫌気がさした。


「… 名無しさん?」
『はい?』
「やっぱり嫌だった?」
『…え?』


りんたろーさんがさっきとは違い、悲しげな声で話しかけてきた。


「ため息ついてたからさ。俺なんかとデキてるって思われるなんて嫌だよなって」
『えっ…』
「ほんとごめん。兼近にはちゃんと説明しとくから」


そう言って悲しげに視線を落とすりんたろーさん。
寂しそうにポケットに手を突っ込んで話すりんたろーさんを見て、思わず私は、


『…嫌だなんて言ってないじゃないですか!』


りんたろーさんの腕を掴んでいた。


「えっ」
『私、りんたろーさんに嫌な思いさせちゃったなって落ち込んだだけです!その可愛い爪も、勝手に触っちゃって失礼だったなって!だからりんたろーさんとデキてるって思われるのが嫌だったわけじゃないですよ!』


自分でもよくわからないくらい早口でまくしたてた。
りんたろーさんはそんな私をビックリした顔で見つめている。


『あっ、いや、ごめんなさい…!つい…、、でも勘違いしてほしくなくて。だって…、りんたろーさんの事が嫌なわけないじゃないですか…』
「…」
『嫌なわけ、ないじゃないですか…』


2回言った。なぜか。
2回言って、とんでもないことを口走ったんじゃないかと気づき、瞬時に顔がカッと赤くなるのを感じた。
急に恥ずかしくなって、下を向いて黙ってしまう。


「…なにそれ、期待してもいいの?」
『へっ』


パッと顔を上げると、真面目な顔して私を見下ろしているりんたろーさんがいた。


『き、期待って…?あ、あ、あの…っ』
「…ふっ、」


しどろもどろになっていると、急にりんたろーさんが吹き出した。


「いや顔真っ赤!困惑しすぎでしょ!」
『わ、わらっ…笑わないでくださいよぅ…』


赤くなった顔を見られるのが恥ずかしくて、手で顔を覆う。
りんたろーさんがケタケタ笑ってる。笑ってる彼を見るのは好きだ。


「ほんとわかりやすよね。名無しさんって。なんかちょっとイジめたくなんだよね」
『な、なんですかそれ、』
「ごめんごめん。反応が可愛くてさ」
『可愛くないですったら!』
「まだ顔赤いよ笑」
『もー!わ、私もう時間なので!もう行きますね!それじゃあ!』


恥ずかしさのあまり今すぐにでも立ち去りたくなり、踵を返してりんたろーさんとは反対側に歩き出した。


「名無しさん」
『な、なんですか?』


後ろから声をかけられ、少し赤みの引いた顔で振り返る。


「別に俺、嘘は言ってないからね。あと、名無しさんになら爪もいくらでも見て触ってくれていーし。…あと俺も、名無しさんのこと嫌じゃないから」


そう言うと、りんたろーさんは背中を向けて歩き出した。



は、はあ〜〜〜〜?
なんですか、今のは。なに、なんなのりんたろーさん。恐るべし。なんか、か、カッコよかったし。なんなの。

またまた顔がカッと赤くなったのを感じた。ドキドキ言ってる胸を手で抑え、深呼吸する。

大事な顔合わせの前に、一回頭と顔を冷やそう。


そう思い、私は再び歩き始めた。


END


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