ダイアモンド・クレバス

□始まりまで
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身体が痛い。
胸が苦しい。
頭痛がする。
壊れそうだ。



「ん……っ」



曖昧な記憶の中、俺は寝返りと共に目を覚ました。
頭はまだ完全に覚醒しきっていない。
誰かが俺の頭を撫でている。
ここは──




「目が覚めた?」




声がする方に目を向ければ、優しく微笑む鷹矢の姿を捉えた。
撫でていた手を止め、今度はその手を俺の頬へと持ってくる。



「…ごめんね、愁哉。酷いことしちゃって」



酷いことなんてされただろうか。
曖昧な記憶を手繰り寄せても、得られるものなど極僅かで。
思い出せたのは気を失う前の鷹矢の表情。




「鷹矢、ありがとう……」



何に対しての礼かなんて、俺自身にもわからなかった。
でも確かなのは、俺を連れ去ってくれたこと。



「なーにが?」



鷹矢はいつだって優しいから。
俺はそれに甘えるだけ。



「俺…まるでお姫様みたい」



王子様が迎えにきてくれた、まるで御伽話の。
鷹矢はその王子様だ。



「姫って愁哉のあだ名だね」



そう言って鷹矢は笑った。
釣られて俺も笑う。

──ここは鷹矢の部屋。
外は少し暗い。
時間的には夕方だろうか。



「飲み物取ってくるから少し待ってて」



そう言って鷹矢は部屋を出た。

学校を抜け出したのなんて初めてだ。
もう家に連絡は言っただろうか。
だとしたら鷹矢も一緒お叱りを受けてしまう。
でもどうしても今は。



「──帰りたくない……」





その呟きは、扉の前に立つ鷹矢の耳にだけ響いて消えた。








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