キリリク小説

□真夏の交響曲‐symphony
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暑い。


季節は夏、真っ只中。


どうしようもない暑さ。
俺は暑いと繰り返すしかなかった。





真夏の交響曲‐symphony



「あーつーいー」


いくら私立高校で、冷房完備でも暑いものは暑くて。

俺は四六時中そればかりを繰り返していた。


「クーラー効いてるよ?」


天然で返す愁哉の言葉でも、さすがに涼しくはならない。
というか当たり前だ。


「それでも暑いって!プールの授業とかないわけ?」


水が浴びたい。

でも残念なことにこの桜美学園にはプールの授業がなく。

結局俺は冷たいペットボトルに縋るしかなかった。


「暑いって口に出すから暑いんだって。」


そんなこと言ったって暑いものは仕方がない。
それを口に出せば、鷹矢に同じことを言われるのは目に見えてるから言わないけど。


「んー…」


もう喋る気力もない。
これだけ暑いのに涼しい顔して、本に目を通す鷹矢。
一体どんな体してんだよ。


「ね、明日からの三連休どうするの?」


不意に愁哉がそう聞いてくる。
そういえば三連休だ。


「予定なんかないや」


つーか不動、忙しいだろうし。
何だか最近仕事が多いみたいで、朝も早いし夜も遅い。

出掛けなくていいと言えば嘘になるけど、我が儘なんて言えない。


「涼しいとこ行きたーい」

「南極とか?」

「いや、普通のとこだから」


ちょっとボケてみたのに、鷹矢は速攻で返してきた。

大体涼しいとこってどこだよ。

そう言おうとして、ふと頭に浮かんだ場所。


「…海行きたい…─」


もう何年も行ってない。

無意識に呟いた言葉。

当然二人には届いていて、愁哉と鷹矢は目を輝かせた。


「いいねぇ、行きたい!」


鷹矢は読んでいた本を閉じ、楽しそうにそう言う。

一方の愁哉は、


「俺、海なんて行ったことないよ」


好奇心たっぷりの目を輝かせながら可愛らしく笑った。


「行ったことねぇーの?」


意外。
だって金持ちだし、旅行とかよく行ってそう。

そう言うと愁哉は少し寂しそうに笑った。


「休みの日は一日中、稽古の日が多いから」


なんかそう言われると連れて行ってやりたいな…。

帰ったら不動に聞いてみよう。



その後はいつもの鷹矢の惚気で昼休みは終わってしまい、午後の授業を済ませてから珍しく三人で帰宅した。







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