キリリク小説
□未完成
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きっと、幸せになって…──
それが父の、母の、あの人の願いだった。
外を歩けば、肌寒さに拍車を掛けて冬へと近づいている。
「不動、見て見て!」
不意にそんな声が耳を掠める。
いつもより少し鼻に掛かった、寒そうな声。
でも嬉しそうに笑いながら俺のスーツを小さく引っ張る。
「ほら、イルミネーション」
指差す方にはクリスマスツリーが飾られている。
そんな微笑ましい、どこにでもあるような光景。
「もうすぐクリスマスだなぁ」
悴む手を擦り合わせながら、ツリーを見つめ零が呟く。
『もうすぐクリスマスじゃない!あんたも早く恋人ぐらい見つけなさいよー』
それが、頭の中で、あの人の言葉と重なった。
───未完成
俺がまだ、零と出逢うよりずっと昔。
俺の全てを変えた、あの人との物語……───
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