WORLD OF THE VOICE
□条約‐treaty
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「起きたか」
そう言った不動はバスローブに身を包んでいて、その余裕さに俺は腹が立った。
「あんなことしといてよく堂々と顔が出せたもんだな」
皮肉たっぷりにそう言ってやると、不動は喉の奥で笑った。
「悪いがあれぐらいじゃ罪悪感なんて感じない。もっと非道なことに手を染めているからなぁ…」
その目に、ゾクリとした。
「安心しろ、今日はもうしない」
当たり前だ。口には出さずに態度で示すと、不動はまた小さく笑った。
「それと、金は封筒に入れてそこの引き出しに入れておいた」
「金?」
一体なんの…
「忘れたか?お前の身体、一回百万で買っただろ?」
そうだった。俺は引き出しを開けて封筒を確認する。中には百万が入っていた。
…百万?
「待てよ、昨日はあんなに…」
いっぱいしたのに。
恥ずかしくなって、それから先は口を噤む。
「あんなにイったのはお前だけだ。わかってるとは思うが、一回百万の一回は俺の一回だ。」
じゃあ昨日のあれだけでたったの百万ってこと?
「一日の利子つけたら…単純計算の160回じゃ足りないじゃねーか!」
利子は一日八百万。利子を返すだけでも最低八回はしなきゃいけなくなる。
「今更気付いたのか、まぁ精々俺を満足させてくれよ?零?」
不動は楽しそうに笑うと、煙草を口に近づけて火をつけた
煙を吸い込み吐き出す。
数回そうした辺りで、我慢しきれなかった俺は勢いよくむせ返ってしまった。
「ゴホっ…ゴホ─」
それに気付いたのか、不動は慌てて灰皿に煙草を押し付けた。
「苦手だったか?」
「苦手っつーか…嫌いなんだよね…でも我慢するから平気」
友達にも吸うやついたし、と告げれば不動は困ったような、それでいて優しく笑った。
「無理するな、苦手なら苦手で構わん。俺に気を使うな」
そう言って俺の頭に手を伸ばしたかと思うと、優しく撫でた。
あったかくて、心地が良い。
「─…も、離せよっ!」
これ以上されると恥ずかしい。
俺は気恥ずかしさから不動の手を振り払った。
「まったく素直じゃないな」
俺の胸中を読んだかのように不動は笑いながら言った。
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