ダイアモンド・クレバス
□痛みと云う鎖
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「なーにしてるの?」
唐突にこの場に似つかわしくない、脳天気な声が響く。
そちらを見ればそこに立っていたのは朝から会うことは滅多にない、長男の琉哉兄様。
今の話聞かれたかもしれない。
玖哉兄様の拘束が緩んだ隙に、俺は姿勢を正し丁寧に挨拶をした。
「お早う御座います、琉哉兄様」
聞かれていたとしても、もうどうすることも出来ない。
出来るのは普段と同じ様に振る舞うことだけ。
「お早う愁哉。朝からそんなに畏まらなくていいよ」
琉哉兄様は柔らかく笑うと、玖哉兄様に視線を向けた。
「で、玖哉は朝の挨拶してくれないの?」
そう言われた玖哉兄様の目には、明らかな嫌悪感が含まれていて。
少しだけ緊迫した空気が流れた。
「…お早う御座います」
玖哉兄様が無表情でそう言えば、反対に琉哉兄様は笑顔で返す。
「うん、お早う。それより朝から愁哉苛めないでよ」
俺を後ろから抱き込みながら、琉哉兄様は玖哉兄様に向かってそう告げる。
「苛める?まさか。久しぶりに会ったので少々会話をしていただけですよ」
そう言った玖哉兄様は驚くほど冷たい顔と声をしていた。
「ならいいけどー…祐哉が心配してたよ、愁哉が遅いって」
すぐに行くと言ってからもう二十分は経っている。
「申し訳ありません、すぐに向かいます」
慌てていうと琉哉兄様は笑って応えた。
「謝んないの。それより早く行ってあげて?俺は玖哉と話があるから」
「では失礼します」
短く告げると、俺は早足にその場を去った。
残った二人がどんな会話をしていたかも知らずに。
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