ダイアモンド・クレバス

□点と線
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俺の中で玖哉兄様と云う存在は、これほどまでに大きかっただろうか。
少なくとも以前よりは大きいのだろう。



「…玩具、か…──」



自室へと進めていた歩みを止め、誰もいない暗がりの廊下で小さく呟く。
言葉にすれば潰れそうな胸。
兄にとって自分は弟ですらなかったのだ。
ただの愛翫具。
それを思い知らされた。



「何を、…期待していたんだろう……」



本当は、もっと別の感情があったのではないか。
俺を傷付け、自らを満たすだけの行為のはずだったのに、兄様は避妊と云う男には必要の無い配慮をした。
相変わらず兄様の意図が掴みきれないこの関係。
今の俺たちは、いったい他の目にどんな関係に映るのだろう。

兄弟?主従?俺は何?
どうして、どうして。
以前にも増してこの問いの答えは深まるばかり。



「嫌い、なのかな……」



それ以外に、考えられる節はない。
嫌われているのならそれは仕方がない。
兄様にとっては女々しくて情けない、取り柄などまるでない劣等な弟なのだから。
いや、弟とすらも思われていないのだろう。
それはいつも心の中にあったこと。


でも、だったらなんだと云うのだろうか。
嫌われていて、それで?
今更変わるわけでもない。
俺が悪いと、これは俺の罰だと諦め抵抗をやめた。
そして兄様は躾だと繰り返した。
ただいつも変わらないで俺の中にある感情は“恐怖”。

俺は男で、俺の身体は兄様を受け入れるように出来ていない。初めての行為のときは嘔吐もしたし、この前のときは発熱。
無理矢理開かれた俺の躯は悲鳴を上げている。
本来の用途とは違うのだから痛みも苦しみも、そして何より恐怖を伴うのだ。

抵抗も、今では受け入れてしまった。



自室へ着き、入ってすぐに扉の前で座り込む。
崩れ込んだと云ったほうが正しいだろうか。



「……ッ…」



俺は兄様が嫌いなのだろうか。
聞かれても答えは出ない。
あれだけのことをされたのに、俺は嫌いになりきれないのだ。
それは俺が甘いだけなのか。
初めて陵辱されたあのとき驚きよりも痛みが、痛みよりも苦しみが、苦しみよりも恐怖が、恐怖よりもどうしてと云う感情が勝った。

だからと云って逃げられる術はない。
ただ一つだけ聞きたいことがある。
それだけは、どうしても譲れない。
例え兄様が答えてくれなくても、聞かなければならない。
それが代償として。




「どうして、俺を抱いたの……───」



暗闇で呟いたその言葉は、誰の耳にも届くことはなかった。








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