ダイアモンド・クレバス

□点と線
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早足に校舎を歩く。
行き先など決まっている。



「あれー?珍しいですね、祐哉兄様がここにいらっしゃるの」



後ろから声を掛けられ、振り返る。
そこにいたのは分家で従兄弟の鷹矢だ。
ここ、と云うのは新館。
本来俺が授業を受けているのは本館だからここにいるのは珍しい。
滅多なことがない限りここには来ない。



「ああ、この先に少し用があってな」



勘の鋭い鷹矢のことだ、そう言っただけで察するだろう。
この先にあるのは職員室、放送室、第一資料室に保健室。



「愁哉は一緒じゃないのか?」


学園内では一緒にいることの多い二人。
今朝は愁哉を見掛けていないから少し気になった。



「愁哉なら教室にいますよ?休んだ分のノートをまとめているみたいで」



そうか、とだけ答えて早々に踵を返す。
自分で尋ねたくせに軽い返事。
悪いが少し急いでいて、ここで足止めを食らっているわけにはいかない。



「何かおありですか?あなたが焦っているなんて久し振りですね」



弾かれたように振り返った。
焦っている?俺が?
鷹矢の瞳にはそう映るのか。



「至って普通だか、」

「嘘ー?でもまぁ、そういうことにしておきます」



何が言いたいのだろうか。
真意を探りたいのは山々だが急がなくては昼休みが終わってしまう。



「悪いが失礼する」



それだけ云ってまた歩き出す。
だがそれをまた鷹矢が遮った。



「祐哉兄様」



ただ立ち止まる。
口は開かないがそれは鷹矢の言葉を促している証拠。




「急いては事を仕損じます」



その科白に鷹矢の方を振り返ったが、鷹矢は既に俺に背を向けその場を去っていた。



「焦っている、か」



らしくないのかも知れない。
焦れば焦るほどその結果は良くないのだと、玖哉兄様とのことでよく理解しているつもりだった。
鷹矢と会う前よりも歩きを速め目的の場を目指した。









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