銀魂文

□さりげない人(土銀)
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「甘いもの好きだったよな?」
「え、ああ」
多忙を極めているはずの真撰組の副長がいきなり家を訪ねてきたと思いきや。
その言葉とともに、手に置かれた桐の箱を見て、銀時は目を丸くする。
手の上に乗っている箱、蓋は透明で中身が見えるそれには、和菓子、煉り切りというやつが入っていた。
見た所品の良さそうな色形のそれを見て、銀時は蓋を開けた。
「なんだよ、いきなり」
「…貰いもんだ、俺は甘いものは食わんからな、かといって、腐らすのは勿体無いから」
そっけない返事を右から左に流して、銀時は目の前で誘惑する和菓子4つの内のひとつを口に放り込んだ。
甘い味が口の中に広がって、それと同時に落ち着く。
そういえば、和菓子や煉り切りなんて、結構高いから買わない。
どちらかといえば、パフェとか、安価の洋風の菓子を食べているから。
暫く口に残る餡。
銀時は最後にいつ食べたのか忘れたくらいの久しぶりの感覚を味わって、隣でタバコをふかす土方を見る。
「お前は食べないの?」
「だから、言ったろ、俺は甘いものは苦手だ」
「…後で返せっても返さないからな」
「…いらねえって…ま、和菓子は一日4つでも十分だろ」
「…」
銀時はそう言われて和菓子を見る。

確かに、この4つで満足できそうだ。
しつこくない甘さ。
なのに、一個でずっしりと満足させる。

久々に食べたからかと思ったが、そうでもないらしい。
二個目をつつきながら、銀時は頷いた。
「たまになら、和菓子も悪くねーかも」
「たまにか?じゃあ、たまにもってきてやるよ」
「ん?」
もう帰ろうとしているのか、横で立ち上がった土方の言葉に、銀時は彼を見上げた。

さっき、貰ってきたとかいったのに。
なんだ、やっぱり、買ってきたのか?
やだなあ。
可愛いやつ。

でも、なんでいきなり。

銀時はそう考えたあと、隣で背伸びをしている土方を眺めて口を開く。

「…なあ、多串くん」
「…俺の名字は土方だ」
「…ま、そこらへんはどうでもいいけど」
「どうでもいいわけねえっつの」
ため息混じりに吐き出された土方の言葉を聞いてから、銀時は笑った。
「なあ、土方」
「お、おう」
いきなり名字で呼ばれたことに焦ったのか振り向いた土方に、銀時は笑った顔のまま練り切りを、添え付けてあった串で切って、切れ端を向けた。
「はいあーん」
「…あ、あ〜…」
間延びしたあまりにも可愛くない「あーん」に、それでも何故かつられて土方は口をあける。
その後、放り込まれた切れ端を口の中に入れたまま、甘さに少し眉を寄せた。
「甘…」
「違う、美味しい!だろ〜?お前やっぱりマヨネーズばっかり食ってるから味覚おかしいんだよ」
ケラケラ笑いながら、残りの練り切りを口に入れて、銀時は様子を伺うように土方を見る。
その視線の先で、帰るのを止めて、また座ったらしい土方が少し考えたあとに、手を伸ばしてきた。
その手に肩を掴まれて、銀時は多分キスをするんだろうと思い、のろのろと彼を見上げた。
「なんだよ?」
「もっと食べる」
「…」
そう言って、唇を合わせてきた土方に、銀時は目を瞑った。



少し、長いキスが離れる。
もう少し、長いほうが良かったのに。
なんて思っても…もっと、なんて言えねえけど。

離れたが、少し顔の位置が近い土方に、もう一度キスしたいがそれを振って、銀時は悪態をつく様に眉を寄せてみた。

「なあ、もっと食べるなら、普通、固形で残ってる方にしないわけ?」
「お前の口に入ってる方が上手いんだよ」
「うわ、なにそれ、やだ、土方さん変態っ!やらしいっ!」
「…煩い…しかし、ほんと、甘ぇ…」

和菓子特有の甘さが気に召さなかったのか、やはり眉を寄せている土方を見て、銀時は口の中に残っている甘さに目を細めた。

「美味しいのになあ…」
「誰も不味いなんて言ってねえよ」
「だろうな…だから、和菓子の美味しい店に、わざわざ買いに行って来てくれたわけだ」
「はあ?!」

図星を突いた。

その証拠に、土方の顔に少し朱が走る。
銀時はそう思って意地悪い笑いをしながら土方を覗き込んだ。

「…っち…」

銀時のその顔に、今更の誤魔化しが効かないと瞬時に判断したらしい土方は、釈然としない顔で目を逸らした。
その横顔を見た後に、銀時は土方と同じ方向に視線を移した。
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