銀魂文

□夜の桜(近土)
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夜桜の美しさはまた格別だろ。
そう言って、笑う隣にいるのは自分。

これ以上にない幸せだ。

◆◆◆
いつものように花見を終えるはずが、随分と羽目やら調子やらを外してしまった。
近藤さんは暫くのびた後に復活して負傷しながらも元気よく飲んでいたし。
沖田はチャイナ娘と格闘。
自分はといえば…。

気付くと屯所。
ペース配分を考えずに酒を呷った体が喉の渇きを訴える。
布団の横に置いてあった水を見て、それに手を伸ばして、中身を飲むと、外から光が差しているのに気付く。
「…?」
月明かりだろう。
それに引かれるように外に出ると、縁側に人を見つけた。
少し驚いたが、人間であることを確認してから、ふらつく足を動かした。

「何してるんですか?」
「お、トシ、起きたか」
「な〜んにも覚えてませんが、俺、坂田の野郎と飲み比べして、その後どうなってました?」
「自販機の上に器用に寝てたぞ」
「…そりゃ随分無様でした、すいません」
恥ずかしい限りだ。しかし、間髪要れずに近藤が、自販機の取り出し口に顔を突っ込む銀時よりはまだマシだぞと続けて、その様子を思い浮かべて笑ってしまった。
「アイツらしいな」
そういって、尚、クスクス笑う土方を隣に、近藤は酒を飲む。
それを見て笑いを止めて覗き込んできた土方に、近藤は口の端をあげた。
「トシはダメだからな」
「あ、チクショ、先に言いやがった」
「これ以上は二日酔いになるぞ、いいな、やめとけ」
「少しぐらいいいだろ、よこせ」
「あっ、この」
酔って感覚の鈍くなり始めている近藤の持っていた杯を取ってその中の残りを飲む。
キツい。
昔からキツい酒をケロッと飲みやがる。
しかし、美味しい。
「美味いな、これ」
「だろ、いい酒だ」
体にしみるようなキツい酒に素直に美味いと言うと、土方は近藤を見上げた。
「ところで何をしている?」
「ああ、夜桜ってやつ」
「はあ?」
「風情だろ、皆でバカ騒ぎの花見も楽しいが、独りで夜桜っていう美人と向き合うってのもいいだろ?」
そう言って土方から取り上げた杯を持って桜に向ける。
そういえば、ここにもこんな見事な桜があったな。
そよ風に自分の美を乗せて花弁を舞わせる、満開を過ぎた儚い桜は、確かに美人かもしれない。
その桜を見て、暫くぼんやりしている土方の横顔を近藤は目を細めてみる。
見入っているのだろう。
夜の桜は満月に照らされて全貌を見せてはいないものの、淡い桃色の光を帯びて魔力を放っているようだ。
「な?夜桜の美しさは格別だろ?」
ぼんやりしている土方に念を押すようにそういうと、静かに頷いた。
「いいな、ずりぃな、毎回一人占めか?」
「まあな、ここの桜は花見の騒ぎとは無関係でもいいのかなとか、勝手な事をさ、思ってる」
「…これからは俺も一緒で構いませんか?」
「おぅ、勿論、構わねえよ」

なんだ、あっさりだな。
土方はそう思い、また近藤の杯を奪おうと手を伸ばす。
しかし、それは途中で止められて、押さえられてしまった。
「…なにすんだよ、離せよ」
「これ以上は次の日寝不足よりもひでぇことになるぞ」
「わかったよ、全く煩せぇ奴」
「俺ももう飲まねぇから、二人で桜、眺めようぜ」
「…なんだよ、邪魔になるならもう寝……」
やはり自分がいると邪魔なのかと思うと悔しくなって、帰ろうと、手を振り払おうとして逆に引っ張られて肩を掴まれた。
「いいから、居ろよ」
「!」
そういって唇を重ねてきた近藤に驚いて土方は抵抗しようとしてその肩を押す。
そんなもので動かないのは知っているが、とりあえず、押していると、軽くしたにしては長いキスが離れる。
「……こ、近藤さん…?」
「お前がいれば酒はいらねえよ、あと、お前がいなきゃつまんねえ」
「だから、なんで…」
また唇を塞がれて、土方は場所を考えて心臓が大きな音で鳴り出す。
「ちょ……んぅ…」
頬を優しく撫でられながら、深いキスを続けられて息が上がった土方は、少しの隙で一気に唇を離す。
「このっ…!!!」
その勢いのまま殴ろうとしてその腕を掴まれる。
そのまま、力を加えられてそれを床にまで下げられる。
肩で息をしたまま睨んだ土方に、近藤は笑ったようだった。
「なっ…何がおかしい!」
「…怒った顔も好きだからさ今は全然怖くねえ、なんかゴメン、本当ゴメン」
「…なっ…謝るならするなよ!!!」
「俺のことで一喜一憂しないでくれよ、期待しそうだ」
「いらねえ期待すんな!」
「悪いな、どうせ俺は勘違い暴走男ですよ」
言い方と顔は一致していない。微笑んでいる。
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