銀魂文

□兎角動かされがち(土←沖)
1ページ/3ページ

苛めているのは俺だと思ってる。
でも本当の上手はお前だ。
何も知らないお前だ。
どうしてくれるんだ、どうしてくれるんだよ。



「沖田、俺の貸した本はあるか?」
「あ、まだ読んでねえや」
「…あ、そっか、じゃあいい」
「本、なんならもう返すけど…」
「別に、急がないからいい」
「そうですか」
「お前にも絶対に読んでもらうんだからな、全くいつまでも待たせるなよ」
返そうと思って持った本の題名『えいりあんVSやくざ』
御丁寧に本があったとは天晴れな映画だ。
映画を見ていないと軽く言ったら強制的に本を貸された。
お前は映像よりも文字の方が集中するからこっちのがいいだろ、と手渡しされたもの。
自分を良く知ってくれているものだ。
軽くそれを口にしたアンタのせいでこっちはどれだけ胸の鼓動を早くしたと思っている?
手に持たされた、その本を返したくなくなっていた。
土方がその本を買った現場は山崎が見ていたから彼のもので間違いはない。
それを知ると、更にその思いが強くなってしまうのだ。
実際もう読んだ。
読んだけど、嘘を吐いた。

どうせ、アイツに貸すんだろ。
絶対譲らねぇよ。

土方が去った後の部屋でぼんやりと本の表紙を眺めた後、沖田はテレビのリモコンを手に横になった。





「おわっ、危ないぞ、総悟」
「はィ?」
丁度聞きたい声とともに顔すれすれに荷物が落ちてくる。
驚いて起き上がると、目の前に今度は顔が現れた。
「悪い、怪我しなかったか?」
「ええ、顔はなんともないです」
「そっか、良かった、折角の美形を台無しには出来ないからな、ははははは」
そういって離れた顔の変わりに大きな足が見えた。
その足の主をもう一度見上げて、総悟が少しだけ縋るような思いで口を開いた。
「近藤さん」
「総悟、これ見ろよ、新調した隊服…な、んだけど…どうした?」
「あ、いや、なんでもないですよ」
縋るような口調だとばれてしまっただろう。
沖田は口を塞いで眉を寄せた。
「なんでもないですから、気にしないでくだせぇ」
手を振って空笑いをした後に、近藤を盗み見ると、彼は座りなおしていた。
その後、真っ直ぐな目で見られた総悟はそのまま固まって動けなくなってしまった。
「顔は、なんともないって、言ったな?他はダメなのか?」
「!」
いつもは猪突猛進で馬耳東風の癖に、耳ざとく聞いていたなと、胸の底で毒吐いて、総悟ははぐらかそうと笑う。
笑った顔の元気の無さが、わかったのか、近藤は一つ咳払いをして優しく微笑む。
「総悟、お前は年の癖にしっかりしているから心配してなかったけど、だからといって放っておくなんてしたくは無い、わかるな?」
「…いや、いいって、いいですから」
「バカ言うな、実際トシより悩みすぎるくせに、幾ら俺でも、そういう態度の総悟は見逃さんぞ」

アンタだから分かるんだよ。

そうツッコミを入れようとして、自分の分析を出来ていない近藤を再度見上げる。
目が合った途端に総悟は自分が辛抱できない事を悟ってポーカーフェイスを崩してしまった。
「アンタずるいや…」
「ズルとかじゃない、総悟、俺はトシみたいに頭がいいわけじゃないからさ、隊員にこういうことしかできないんだ、仕事なくさないでくれよ」
「近藤さんはそれ以上に仕事ばっかりでしょうが、ご自分を見くびらないで下さい」
「で、どうした、いつもの口調はお休みかィ?」
「…へへへ近藤さん」
口調を真似してニッコリと笑って自分と対峙した近藤に沖田は嬉しそうに近寄る。
自分は真選組の皆より何歳か年下。
力と実力でのし上がった幹部ではあるが。
どうあっても、土方には昔からいつも子ども扱いをされていた。
それを打開する為にもともとの狡賢さに磨きをかけて色々やってはいても。
一歩前を行くあの人は自分をみてくれることはなかった。
でも、近藤さんは違う。
皆と同じく何歩か先を行って、でも、その後、何度か振り向いて、手を差し伸べて、廻りを見渡す。
だから、近藤さんは、皆に好かれて、信頼されて。
だから。
「近藤さん」
「ん?」
「抱きついていい?」
「は?」
「ダ〜メで〜すかィ?」
「…刺されそうだな」
「やだなあ、そんなん土方さんにしかしませんぜ〜」
「だだだ、駄目だよ総悟君!」
「…それはいいから、駄目ですかィ?」
「…」
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ