銀魂文

□髪1(土銀)
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昔は髪が長かったんだよ。

そういった彼に、自分はそれを想像して、ちょっと見てみたくなった。

見て、どうなるか、自分でも分からずに。



「…いや、だからってこれは…」
「いいだろ〜?だって見たくなったんだから」
「…つか、ヅラなんて…」
「じゃあ銀さんもつけるから」


真っ黒な毛の塊を眺めて土方は眉を寄せる。


「ところでココどこだ?」
内装は派手そのものだ。
いかがわしい部類の店だな、と思い、むせる様な香水の匂いに眉を寄せた。
土方の訝しげな表情を見てから、銀時は少し前の記憶を辿って苦笑いした。
「マドマーゼル西郷の店、こんな化け物屋敷二度と来るつもりもなかった…げほげほ」
「?」
どこかで聞いたことがあるような?
そう思った土方は首を傾げた後、目の前から歩いてくる熊のような人間に視線を置いたまま動けなくなった。
「久しぶりね〜!なあに、またやる気なったの?」
「!!!」
野太いのに、それでも裏声。
見た目、完全男だ、のに、なんだこれ。
そう、思ったのを示すように土方が硬直する。
それを横目で見た後、銀時は目の前の巨体に手を上げた。
「よ、西郷さん、絶対もうやりませんけど」
「ちっ、アンタならトップも夢じゃないわよ?…エクステンション借りに来るなんて、どうしたの?」
「夢も何も、そんな夢嫌だ、ああ、ちょっと友人の髪を長くしたくてさ、でも綺麗なヅラあるところここしかしらねーしさ」
「…あら、美形」
西郷が固まったままの土方に視線を移す。
目線を合わされた土方は汗が噴出すような感覚に襲われる。
幾らなんでも怖い。
何で銀時はこんな奴とも知り合いなのだ。
頭の中の整理をつけようと必死になっている土方に構わず、西郷は土方を上から下まで眺めて頷いた。
その姿は真選組の隊服である。
直ぐにすらりとした背格好と目立つくらいの容姿で人物を特定したマドマーゼル西郷は手を叩く。
「あらぁ〜やっぱり真選組の副長だわ、いらっしゃい楽しんでって?」
「い、いえ、すぐ帰ります…仕事あ、ります、から」
「土方、頑張れ!」
「が、頑張れるか!」
「まあ、緊張しちゃって可愛い」
「!」

終ぞ、可愛いなどと言われることは余りない。
ああ、そうだろうな、お前から比べれば俺は総悟の如くプリティだとも。

いやいや、じゃなくて。
土方はようやく落ち着きを取り戻し始めた自分の度胸に感謝して銀時を見る。

ああ、銀時、可愛い。
可愛すぎる。
なんて可愛いんだ。
こんな場所にお前がいたらすっごい綺麗な花じゃないか、死んだ魚の目でもお前でも花になるじゃないか。

銀時は見つめられて、少しだけドキリとする。

あまり、見つめないで。
というツッコミをかねて、銀時は土方の頭にヅラをつけた。

「あら、まあ」
「…」
「はっ…」

銀時を見つめている間に、なにやら事が起こったようだ。
土方は自分の頭が重くなったのを感じて、手を後ろにやる。
フサフサとした感触を手に、久々の重さを、なんとなく、感覚を思い出す。
「おお、なんか、新鮮…土方が…新鮮」
「化粧しちゃダメ?」
「ダメ、トシが女装したら洒落にならない」
「…ん?」
見つめている四つの目。
土方は段々恥ずかしくなってきてヅラに手を掛ける。
そして、取ろうとしたが、一瞬先に銀時に止められた。
「だめだ外すなぁ〜!銀さんもつけるから」
「ひ、必死になることか!!!やめろ、取らせろ!」
「銀さん恥を忍んでパー子ちゃんに返り咲くから、頼むから今日だけは〜!」
「こんなんで仕事行ったら総悟に馬鹿にされること請け合いだろ!!!いいから取…」
そこまで言った土方の言葉が止まる。
正確には遮られたのだが。
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