Ss

□NとS
1ページ/2ページ

いつもそうだ。
あいつをみていると無性に苛立つ。
理由なんか知らない。
そんなもの、知りたくもない。
だが、その感情は日に日に強まっていった…。
自分でも、信じられないくらいに…。






とぼとぼと、特に行く宛てもなく、町の大通りを歩いていた。
何が楽しいのか、すれ違う人々は皆、笑顔を浮かべている。
「ったく、どいつもこいつも浮かれやがって。」
ぶつぶつと、愚痴を零しながら、土方は前方に鋭い眼光を向けた。
「っ…。」
思わず息を呑み、体が強張る。




「…よぉ。ぐーぜん。」
垂れ下がった瞼に、だらし無く開いた胸元。
今一番会いたくない男、
坂田銀時だ。
猛烈に逃げ出したい衝動に駆られ、気付いた時には走り出していた。
何度も人とぶつかり、その度に激しい罵声がとぶ。
普段なら半殺しにしているところだが、今はそんなことに構っている心境ではない。
一刻も早く、あの場所から離れたかった。





なのに…。





「おい。何逃げようとしてんだよ。」
背後から腕を捕まれ、強引に引き止められる。
振り向くことを、心が拒絶した。
「逃げるだぁ!?馬鹿かテメェは!!」
目線は足元に向いたまま、自分を縛る男に言葉を吐き捨てる。
鼓動が高鳴り、握られた腕の部分が熱を帯びていく。
「おい!テメェいつまで人の腕…っ」
いつまでも離す気のない男に、一発喰らわせてやろうと振り返った瞬間。
唇に何か柔らかいものが触れた。
しばし言葉も発することが出来ず、その場に貼付けになった。



信じることが出来ない。
これが…、これがあいつの唇だなんで…。
小刻みに震える体を銀時は優しく抱き込み、唇を離した。
「もーちょいこのままで頼むわ。」
その言葉に、土方は首を横に振ることは出来なかった。
そのかわり、最上級の罵言を浴びせてやる。
「死ね…。この天パやろ−…。」



土方は、ゆっくりと瞼を伏せ、男の背に腕を回した。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ