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□Invisible Horror
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煙草を買いに外へ出たのが運のつき。
夜闇に光る銀髪に、土方は捕まった。
「土方、一緒にビデオ見よ?」
「ビデオぉ?」
「そ。ペドロの最新作」
「………………行く」
ペドロにつられた土方は、これが銀時の罠とも気づかずに、大人しく万事屋へ歩き出した。
「……ッ………ッ!」
時折、声にならない悲鳴を上げながら、土方はテレビ画面を食い入るように見詰めている。
今、二人が見ているビデオのタイトルは『となりのペドロ〜夏だ祭りだホラーだよ!!〜』というものだった。
歌い文句にホラーとはあるが、銀時にはこれのどこにホラー要素が含まれているのか分からない。
だが、土方は落ち着かな気にそわそわと身体を揺らし、銀時に身を寄せそうになってハッと我に返ったりしている。
「…………」
可愛いなぁもう。
銀時はビデオ鑑賞ならぬ、土方鑑賞に夢中だ。
臨場感を出す為に暗く照明を落とした中で、土方の青ざめた頬が白く浮かび上がる。
陶磁器のようなそれに銀時の指が伸びた瞬間、懐中電灯を下から照らしたペドロが画面一杯に映った。
「ひぎゃああぁぁぁッ!!!!!!」
派手な悲鳴を上げて、土方は隣りに座る銀時に思いっ切り抱きついた。
「ぐぇ、ちょ、土方…苦し」
「………ッ!!」
銀時の潰れた声に、土方は慌てて離れる。
「べ、別に怖かったんじゃねェからなッ!!こ、これはアレだ!びっくりしただけだからッ!!」
青ざめていた頬を紅潮させ、恐怖に潤んだ瞳で土方は精一杯強がった。
そんな土方を、銀時はもう無言で抱きしめた。
「お、おい…」
「土方ァ…」
「何だよ…?」
「銀さん怖くなっちゃった。だから土方に抱きついててもイイ?」
腕の中に閉じ込めた土方の耳元で、銀時は強請るように甘く囁いた。
「…ッて、てめぇがどうしてもってんならイイぞ」
「どうしても」
「分かった…」
居心地悪そうに身じろぎしていた土方が、安心したように身体の力を抜いた。
「ん〜、俺はこのままでもいいけど、土方テレビ見えないんじゃない?」
「あ…」
銀時の胸に顔を押しつけるような形で抱き合っている為、土方からはテレビ画面が見えない。
見る為には銀時から離れなければならないが、土方はそれが嫌で逡巡する。
「じゃあ、こうしよっか」
「え?」
戸惑う土方の背後に回り、銀時はしなやかな身体を膝の間に座らせる。
「これなら見れるっしょ?」
「あ、ああ…」
しっかり腰の辺りで腕が固定され、土方に安心感をもたらした。
銀時に負担がかからない程度に背中を預け、土方は再びテレビ画面に視線を戻した。
無意識なのだろうが、土方は銀時の服の裾を、きゅっと握り締めている。
画面が変わる度に、びくっと反応する土方が、銀時は可愛くて堪らない。
何度もイタズラしそうになるが、後のお楽しみの為に今はぐっと我慢する。
早く終わんねーかな…。