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□バレンタインデー・キス
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「あーあ…」

町はピンク色に染まっている。普段よりも浮足立っているようだ。

「バレンタイン…ねぇ」

周りを見渡せばどこを見てもチョコレートだらけ。
甘い香が漂っていた。
普段ならば大好きな香りなのだが、何だか今日はイラッとする。

「…おい」

「へ?え、土方…くん?」

聞き慣れた声に振り向けば、そこには恋人である土方が立っていた。
仕事中なのだろうか、カッチリと隊服を着込んでいる。口にくわえてるのはタバコなのか、まだ火がついていないようだ。

「なんつー面してんだテメェは…」

「あれ?そんなに酷いー?」

「いつも以上に酷いな。テメェの好きな糖分の日だろうが…」

「うーん…そうなんだけどね、銀さん欲しいチョコあんの」

返答が意外だったのか不思議そうに二、三回瞬きをすると考えるように眉間にシワを寄せる土方。

「わかんない?」

「…わかんねぇよ…」

ますます眉間のシワが深くなった。
あれじゃあいつか跡にならないかと少し不安になる。
綺麗な顔してんのに勿体ない。

「土方。」

「なんだよ?」

「だから土方。」

「…は?」

本当にわからないのか、ポカンと口を開け、怪訝そうな表情を浮かべる。
普段鋭いくせに、こういうことに関してはびっくりする程鈍い。

「だから土方くんからチョコが欲しい。」

「ばっ、ばっかじゃねぇの!?俺は男だ」

「あのね…恋人だろ?大体、関係ない。俺は土方くんから欲しいの。わかる?」
「………」

急に黙り込んだかと思うと、グイグイと腕を引かれ、路地裏に連れて行かれた。
もちろんこんなところに人なんて俺と土方くらいしかいない。

「え、ちょ、土方?なにこれ?お誘いなの?ねぇ、お誘いィィィ!?」

「うるせェェェ!!」

「え、ひじ…んぶっ…」

言葉飲み込んだ。いや、唇が塞がれているから飲み込むしかなかった。
もちろん、土方の唇で塞がれている。

「…!?」

訳もわからないまま、されるがままになっていると、唇に何か当たる。なんだろうと薄く唇を開ければ、土方にそれを押し込まれた。舌の上で転がせば、甘い甘いチョコレートの味。

「おら…やったからな。…バレンタイン!」

「…なっ…え…」

仕事に戻ると小さく呟き、真っ赤になりながら逃げるように路地裏を出て行く土方を呆然と見送るしかなかった。

「おいおい、可愛すぎるだろうがあああ!!!」



(あー…やられた…タバコじゃなくてシガレットチョコかよ…)

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