【白虎のお題】
□5.昨日と違う女性
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「お頭がまた違う女連れてら!!」
「ほんとだ…これで何人目だよ」
「なんてぇか、お頭らしいっていやぁ…お頭らしいな」
ここは伊予国。最近国司が変わってほんの少しだけど住みやすくなった国。京から来たばっかの可愛らしいいかにも貴族の坊ちゃんって感じの国守様が治めている…らしい。
オレは残念ながらまだその国司ってのには会ったことがねえから噂しかしらねーんだ。
で、その国守をお頭はやたらと気に入ってるらしい。
のわりに、国守が変わってからやたら女を連れてる。
しかもいつも違う女。まあ、雰囲気は似てるっちゃぁ似てるんだけど。
もともと何考えてるのか解らない人だったが、こうなるとますます訳解んなくなってくる。
―――…絶対お頭は新しい国守を連れてくると思ってたんだけどなぁ…
ある日、お頭が連れてきた女が、喧嘩でもしたのか部屋を飛び出して船から下りようとしているところに出くわした。
ここから町へ抜けるにはちょっとした森を通らないといけないってのに。
「なあ、こっから町まで1人で行くつもりか?」
さすがに危ないと思って声をかけたんだけど、返事もしないもんだから思わず腕を掴んで引き止めた。
「聞いてんのか?こっから町の方まで行くのは危ない…お前、もしかしてしゃべれないのか…?」
女は小さく頷くと少し寂しそうに笑った。
その顔がめちゃめちゃ綺麗で思わずじっと顔を見てた。
「どうしたの?」とでもいうみたいに首を傾げられるまで、ずっと。
結局そのままオレが町まで送ってやった。
別れ際に髪につけてた飾りを1つ寄越した。オレはいらねえっていってんのに受け取れってきかないから…
「おや、それはユキがつけていたものだねぇ」
お頭がからかうように声をかけてきた。
「へえ、あいつ“ユキ”ってんだ。町まで送った礼だってよ。受け取れってきかないからもらったんだよ」
「ユキがそう言ったのかい?」
「は?あいつ話せないんだろ?態度と目がそう言ってたんだよ」
「なるほど。ユキらしいね。あの子は口よりも目の方がより雄弁だからね。
あぁそうだ、今日は国守殿がやってくるからね」
「今度はついに国守かよ…あんた、ほんとに物好きだな」
「ふふふ、そうかもしれないね。そうそう、町まで国守殿を迎えに行ってくれまいか」
「へ?オレ、国守の顔なんてしらねーよ??」
「大丈夫、見ればすぐにわかるから。では任せたよ」
そういってお頭はふらりと出かけていった。
本当にいい加減なお頭だよ。確かに国守なんてすぐに見つかるかもしれないけどさ。
文句を言ったところで行かないわけにいかないんだからさっさと行って連れてこよう。
実際国守には会ってみたいと思っていたのだから丁度いい。