読み物
□pass the heart
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きっと先輩は何も知らない
何も気付いていない
だからこのまま
何も気付かないままで
何も変わらないままで
そんなことを思う俺は
少しも優しくなんかないんですよ
貴女のことを
誰の目にも触れないように
閉じ込めてしまいたいなんて
そんなことを考えては
心の奥底へと沈めて
蓋をして押し込める
ねえ先輩?
先輩は
どう、思っているんですか?
兄さんのこと
そして
―――…俺のことを…
「先輩、起きてください。もう朝ですよ。先輩!」
―――…声がする。
とっても聞きなれた優しい声。
でもこんなに朝早くから…どうして…??
「―――…先輩?もしかして調子悪いんですか?それなら弁慶さんを呼んできますから」
弁慶…さん…?あぁ…そうだ
ここは鎌倉の景時さんの家…
―――…私は白龍の神子
今は…惟盛を止めないといけないんだ…
頭がはっきりしてくる
私を起こしに来たのは…
この声は…譲くんだ
「ん〜ぉはよぅ」
「―――…仕方のない人だなぁ…もう一度声をかけて起きなかったら本当に弁慶さんを呼んでくるところだったんですよ?
やっぱり、疲れがたまってるんですね。あまり無理をしてはよくないですよ?」
譲くんはいつもいつもこうして私の心配をしてくれてる。私のほうがお姉ちゃんなはずなのに。
「大丈夫だよ。昨日はちょっといろいろ考え事してたらなかなか寝付けなかっただけ。」
「そうですか?それならいいんですけど…。話して楽になるようなことなら…話してくださいね。俺で…よければいつでも聞きますから。」
そういえば譲くんはいつからか私のことを『先輩』って呼ぶようになって、敬語を使うようになった。将臣君は相変わらず高校でだって名前で呼ぶのに。
―――…少し、寂しい…かな。