読み物

□一通の文
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『この様な文でのご挨拶、真に申し訳なく思っております。可能であれば直接お礼を申し上げたく思うのですが…』

「―――…これでは堅苦しすぎますね…。」

検非違使別当・藤原幸鷹は珍しく職務以外の事で遅くまで起きていた。

自室に居るためか普段よりも幾分楽な装いで文机に向かい、何かを考え込んでいる様子。

「おや、別当殿。そのように料紙を広げて…想う姫君でも出来たのかな?」

からかうような声音とともにさも当たり前かの如く部屋へと入り込んでくるのは海賊の頭。

「―――…貴方はまた勝手に…」

「こうしなければ君は入れてもくれないだろうに」

「何故私が貴方を邸へ招き入れなければならないのです」

「おや、君と私の仲ではないの?」

「どんな仲ですかっ!検非違使別当が海賊の頭と懇意にしているなどという噂は迷惑極まりないっ!貴方が八葉であるからこそ黙認しているだけで…!」

むきになっていい募るほどに墓穴を掘っている事に幸鷹は気付いていない。

「幸鷹殿は愛らしいね」

「どうしてそうなるのですかっ!
―――…こ、こらっ!側によるなっ!文が書けないだろうっ」

「どこかよその姫になど君を渡すはずがないだろう?」

「姫君などではありませんっ!!良くしてくださった方にお礼の文を認めていたのです。

―――…それともそれにすら貴方は妙な嫉妬をするのですか…?」

不意に真面目な顔で問われ驚いたのは翡翠の方だった。
当の幸鷹は頬を紅く染めながらも文机へと向かい再度文を書き改める。

「―――…幸鷹…?」

問いかけても振り返ることなく書を書き綴る幸鷹を見やり、腰に腕を回しなから耳元に囁く。

「君が律儀な人間だと言うことは重々承知していたけれど…やはり焼き餅は妬くものなのだね…。
ねぇ、幸鷹?…君を何より、誰より愛しているよ…」

「―――…知っていますよ」

「それだけ?」

「――――――……私も、貴方が好きですよ」

抱き締める腕、口付けてくる唇…―――





その後がどうなったのか、幸鷹が無事手紙を書き上げられたのかなど知る由もなく、もちろん聞ける者も居なかった…合掌

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