読み物

□Happy Birthday Dear My...
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あまりに空が綺麗な夜は
つい空を見上げてしまうのだよ

宵闇に乗じて君の邸に忍んでいた
あの頃を思い出しながら…ね


「寒いでしょう、窓を閉めなさい」

そういい、寒がりながらも隣に立っている君

「寒いのならば君はリビングに戻っていればいいだろうに」

「窓を開け放していては部屋が暖まらないから言っているのです。それに風邪でもひかれた上にうつされては困るんですよ」


なんて可愛くないことを言うのは何時ものことだけれど


「しかしね、こんなに見事な月は久々だとは思わない?触れれば切れそうなほどの鋭い刃物の如く冴々として。
―――…あぁ、そういえばかつて月を見て君のようだと思ったことがあったね」

「―――…確かに今宵の月は見事ではありますが…
それが何故私なのです」

「美しいから。それに触れればその刃で斬られてしまうだろう?そして手が届きそうで届かない。それが君に似ていると思った所以だよ」

「―――…そんな風に思われていたとは知りませんでしたよ。前半部分は捨て置くとして、そんなに私は近寄りがたいですか」


そう言って少し拗ねたように顔を背ける様もまた愛らしい



だから
どれだけ手が届かないように思えても
手に入れたいと思った

それに手が届かないと思っていたのは
すでに過去のことなのだから


今は前ほど斬りつけられることもなく
こうして君を抱き寄せることも
耳元で愛を囁くことも出来るから



「私は別に月が欲しかったわけではないからね。
それに『まるで月のようだ』と例えた愛しの姫君は
こうして私の腕に抱き締めることが出来るのだから」

「―――…莫迦者。よくもまぁそんな台詞を恥ずかしげもなく言えますね」


こんな憎まれ口さえ愛しい位に君が好きなのだから仕方あるまい?


「私は思ったままを伝えただけだろうに。

幸鷹、私は君が好きだよ。
大体私がこちらに来たのは君と共に在りたいと願ったから。
そこまでしておいて今更その想いを伝えるのに躊躇う必要などないだろう?
ま、君はなかなか聞かせてはくれないがね」

「―――…貴方は本当に莫迦ですね。
言われなくとも分かっていますし、いちいち言葉にしないと理解できないんですか?」

「分かっているつもりでもね、聞きたくなることだってあるだろう?」

「―――…だからと言って何度も言うようなことではないでしょうに…」

「私は何度でも聞きたいと思うが?分かっていても聞けば嬉しくはならないかい?」

「そ、それは…」


私は『聞きたい』とは言ったが『言ってほしい』とは言っていないのに
それを真面目に悩んしまう君が好きだよ

だから私は何度だって言うよ


君を愛してる、とね


「幸鷹…確か…Happy Birthday、と言うんだったよね」

「―――…覚えて、いたんですか…?」

「まあね。神子殿が昨年あれだけ張り切って支度をしていたのだし何より君が産まれた大切な日を忘れられると思う?」

「―――…何というか

…その


―――…嬉しい、ですよ…

どんなに高価なプレゼントを貰うより…

皆に祝って貰うより…

いえ、それも嬉しいのですが…

何より…

貴方のその一言が…一番、嬉しい。


―――…馴染みのないものだというのに覚えていてくれて…

ありがとう、翡翠…。」


そう言って照れて笑う君がなにより愛しくて思わず抱き寄せた


「ひ、翡翠っ?!」

「―――…君が、そんなに可愛いことを言うなんて思わなかったのだよ。

ねえ

今君を抱きたいと言ったら…私をどう思う?」

「私に…聞かないで下さい…。
大体…答えても…無駄、ではないですか…」


そう答えながら私から離れようとしない君

寒さに小さく震えながらも、私の腕の中にいる

それでは私は良いように解釈してしまうよ?



抱き締めて



キスをして



君に触れ



囁いて





君は私だけのもの



私は君だけのもの



そんな風に生きて行けたら



私はそれでよいのだと思うよ




だから



何度でも君に言おう



君が好きだよ




君だけを




愛している、と




ねえ、幸鷹

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