読み物U

□七夕に寄せて
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ささのはさらさら のきばにゆれる
おほしさまきらきら きんぎんすなご

ごしきのたんざく わたしがかいた
おほしさまきらきら そらからみてる


「―――…お前が歌うなど珍しいですね」

思わずキーボードを打つ手を止め振り返ると
そこには苦笑いを浮かべた翡翠の姿がある

「いや、外で子供が歌っているのだが
それがどうにも耳から離れなくてつい、ね
君の邪魔をしてしまったかな?」

「いいえ、調子外れということもありませんし大丈夫です
むしろ珍しいものを聞きましたよ
―――…しかし、懐かしいものですね」

幼い頃は七夕飾りを作ったり、庭で流しそうめんなどをやったことがあったものだ

「君も書いたのかい?短冊に願い事」

「幼いころは書きましたよ。少しでも高い所に短冊を下げたくて
兄の肩に乗って一番高い所に下げたものです」

「おや、随分と愛らしいことをしていたのだね
では、今なら君は星に何を願う?」

くすくす笑いながら翡翠が問いかけてくる

「願いませんよ、何も」

あっさりと答えると案の定苦笑いをしている

「星に願いをかけるなんて非合理的なことは別当殿のお気に召さなかったかな?」

「そういうことではありません
わざわざ星に願わなければいけないようなことなんてないんですよ
―――…私の願いはもう、叶っているんですから」

私の答えがそんなに意外だったのか、ひどく驚いたような顔で私を見ている

「貴方は何かあるのですか?」

「いや、私もないよ。そもそも願いなど自分で叶えるさ
とはいえ、私の一番の願いも既に叶っているのだがね」

「貴方の願いとはなんなのです?」

私の問いかけにくすくす笑いながら楽しそうに言う

「君と同じ、だよ」

私の願いと同じだと、こうも自信ありげにあっさり答えるこの男がどうにも憎らしい

「どうして私と同じだと言い切れるのです」

「海賊の勘とでも言うのかな?まあ外れてはいないと思うがどうかな?」

「くだらない
そういえば、貴方は七夕の話を知っているのですか?」

「一年に一度だけ天の川とやらを渡っての逢瀬が許されているのだったかな?」

「―――…そこだけですか」

「いや、一応知っているよ
一度は羽衣を隠してまで天に返さなかったというのに、あっさりあきらめた情けない男の話だということくらいはね」

「何という解釈ですか、まったく」

此処まで来ると解釈がどうの、と言う話ではない
単に牽牛のようなタイプが気に入らなかったのだろう

「私なら何があろうと手放さないからね、だから情けないと思うのだよ」

「確かにお前らしいと言えばそうですが…
―――…それなら…何があっても私を一人にするな」
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