読み物U

□七夕に寄せて
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ついそんな言葉が口をついて出た



確認してみたくて、でも怖くて聞くことのできなかったこと
自分が牽牛ならけして織姫のことは手放さないと言ったこの男にとって
私は何なのかと言うこと

私の願いと同じ願いを持っていて叶っているのだという
その願いなど聞くまでもないと思いもした

しかし、今この男の口からその願いが何なのか
聞きたいと思ってしまった



「手放さない、と私は言ったよ
それとも君は私から離れたいの?仮にそう願ったとしても…それは許さないよ、幸鷹」



―――…勝てない、悔しいと思うのはこういう瞬間だ

この男は普段話を上手くはぐらかしてしまう癖に
私が本当に欲しい言葉を一番効果的に投げてくる

私が翡翠から離れられるはずがない
そんなこときっとこの男が一番わかっているんだろう

悔しいとも思うのだけれど
それでさえ愛おしいと思ってしまうのだからもう私に勝ち目などないのだ



「そんなこと思うはずがない
言ったでしょう、私の願いはもう叶っているのだと
―――…そしてお前の願いは私と同じなのでしょう?」

「今日は素直だね…どうかしたのかい?」

そう言うと私の頬に触れる



その手の温もりがもっと欲しいと
他の誰にも渡したくないと
そんな事を思う

たまにはこんな日があってもいい、なんて
翡翠の驚いた顔が見たいからだ、と
自分自身にそんな言い訳をして

様子を窺うように私の髪を撫でている翡翠に



私から唇を合わせた



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