SUMMON NIGHT

□Tea time
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とある昼下がり。サイジェントの街にある上流階級区の屋敷の一つ。その屋敷の主であるマーン三兄弟は、中庭の花に囲まれたテラスで優雅に紅茶を楽しんでいた。
テラスには白いクロスのかかった丸い木のテーブルと、それを囲むように若干高さの違う椅子が三つあり、椅子の前のテーブルには、湯気の立つロイヤルミルクティーが置かれている。カムランはテーブルの中央にある花瓶にささった青い花達を愛でながら紅茶を一口啜り、ふぅ、と息を吐いた。
「やはり、この時間は良いですね。心が和みます。」
イムランはそうだな、と笑顔を交えて返すと、革張りの分厚い本を広げた。
「イムラン兄さん、また召喚術の研究ですか?ティータイムくらい、のんびりすればいいのに。」
「そうはいかんのだよ、カムラン。まだいくつか、サプレスについて調べなければいかんのだ。」
カムランがカップを持ったまま、向かい側のイムランの顔を覗き込むようにすると、イムランは文面から顔も上げずにそう答えた。
「……紅茶、それだと溢すぞ。」
イムランはちらり、とカムランを見、ページを捲るのに使っていない左手でカムランの傾いているカップを指差した。
「あっ…。」
カムランは半ば慌ててカップを戻し、ソーサーに置いた。
暫し、心地よい風の音と、イムランが本のページを捲る音しか聞こえない、本当に静かな時間が過ぎた。しかし、不意にイムランは、余りにも静か過ぎると思った。横を見ると、やはりキムランがいない。
「カムラン、キムランはどうした?」
「…?キムラン兄さんなら、向こうで花に水やりしてるじゃないですか。」
イムランは読んでいた本にしおりをはさみ、ひょいと体をずらした。すると、確かにキムランは花に水をやっている。視線に気付いたのか、キムランは体を起こしイムラン達の方を向いた。
「もうちょっと待ってくれ。そろそろ水やりが終わる。」
キムランはそう言うと、再び花の中に身を埋めた。
イムランとカムランはそれを半ば呆れたように眺め、キムランが戻って来るまでイムランは二杯目、カムランは三杯目の紅茶を楽しんだ。

時折吹き抜ける風は優しく、咲き誇る美しい花々の甘い芳香を運んで来る。





何気ない一時。
それは、とても幸せな時間。
そんな時がいつまでも、続きますように…。

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