過去拍手

□無題
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三浦さんと紫茉さんのお話です。


「どうしたの、紫茉さん」
珍しく、元気の無かった電話の主の声に心配になって誘われた場所に来てみれば、薄暗い店内の机の上に突っ伏した、またもや珍しい姿。
「んっ…三浦さん??」
なんで…といいかけたが、自分が呼び出したのを思い出したのか、頭を上げた。
「少し酔ってる?」
滅多に酔うことがないのに。
隣に座りながら、カウンターの中にいる初老のマスターに注文を頼む。
「酔ってないわよ。それより、ごめんなさい。急に電話したりして。」
手に持ったグラスを傾けると琥珀色の液体が光をゆるゆると反射した。
「いや、今日は夕方までの勤務だったし。明日は昼から出勤でいいから大丈夫だよ。」
しばらく当たり障りのない話をして、グラスを傾ける。彼女の弟のこと、GDのこと…。そして
「今日ね、患者さんが亡くなったの。」
「うん……。そうなんだね。」
“仕方がない"わけではない。しかし、医療に携わっていれば、避けられないことだろう。どんなに手を尽くしても、尽くそうとしても、医療は、万能ではない。人間の手で、できることなんてたかがしれている。手術や処置が成功したとしても、そのあと順調に回復するとは限らない。すこしの気のゆるみが、死に繋がる。

「うん。高校生でね。陽と、同じ病気だったの。」

そうか…。
この一言で、納得した。いつもは、太陽のように常に上を向いて、輝くような笑顔で周りを元気づけてくれる彼女が、沈んでいる理由。

「そうか…。」

きっと、頑張ったのだろう。その子も。命が燃え尽きるまで。あの子のように。

「なんだか、自分の無力さを痛感した、っていうか。毎日、なんだけどね。そんなことは。私は全知全能の神ではないから、助かる手助けができる命とかできない命とが、あるのよね。」
からん、と氷が小さく鳴った。
「それでも、昔の何もできなかった私よりも、できることは増えたかなって思ってたんだけど…。ぜんぜん。」

陽典が死んだあのとき。大切な幼なじみを失った彼女は、愛する人を失った弟の支えになろうと頑張ったのだろう。笑顔で。小さな手で、自分の手で守れるものを必死で。

思わず、泣きそうに見えた彼女を抱き寄せた。
「一つでも、多く命が救えるように、できることをやろう。」
無くなっていい命なんかない。誰も悲しまない命なんかない。命の火が消えれば、その火を恋しく思う人が、絶対にいる。どんなに悪者と言われようと。肉親がいなかったとしても、

それをしようと思うなら、下を向いている暇はない。けど。
「たまにはさ、いんじゃないかな」
触り心地のよい髪の毛に指を通して梳くと、きらきらと店内光を反射した。波のように軽やかに光を反射するのを楽しみながら、しばらくは、このままで。
小さく、小さく震える肩は見ないふりをして。


三浦さんと紫茉さんです。陽の死で心に傷を負ってしまったのはきっと、紫乃さんだけではないんじゃないかなと思って書きました。きっと、自分の無力さ、ふがいなさ、みたいな物を紫茉さんも感じたんじゃないかなぁ。そして、紫乃さんを支えていくために、押し殺した部分もあるんじゃないかなと。それが負担だろうな、とかではないです。そうやって、「こうしなきゃ」ってがんばれるのは逆に自分の励みになると思うので。
なんだかとても中途半端で意味不明ですが、少しでも気に入っていただけたら幸いです。

御拍手ありがとうございました。いつもHPに来てくださる方がいること、私にとって、大げさですが、支えになります。本当に、感謝です。

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