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□世界
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私設定ですが、葉山という隊員が出てきます。新人隊員だという設定にしています。
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「Dr.…ちょっといいですか」

或る晴れた日。
ある隊員に声を掛けられ、振り返った。

「ん?どうした、葉山。…体調が悪そうだな。」
外警班である葉山は少し青い顔をしていた。メディカルルームへ連れて行って、休ませた方が良い。そう思い、言葉を続けようと口を開いた。が、橋爪の言葉にかぶせて、葉山がちょっと
相談したいことがあるんです、といった。
「何?体調も悪そうだし、メディカルルームで聴こうか。」
「いえ、ここで…聴いて欲しいんです。」
いつもは控えめで、自分の意見が本当に必要だと言うとき以外、自分の意見を滅多に言わない葉山が、控えめだが、訴えるように、そう言った。
「どうしても?」
「はい」
こう懇願されてはしょうがない、と橋爪はとりあえず近くの座れる場所…といっても地面だが…に促し、腰を下ろした。

「Dr.は、この世界をどう思いますか?」
唐突に、葉山はそう、口にした。なんと言って良いか、迷ったのだろう。口を開くまでに時間がかかっていた。
「この世界…を?」
「はい。この仕事をしていて思うんです。俺たちはテロから議員や個々にいる人を守らないといけない。テロにはもちろん理不尽なものもある。でも…。」
葉山がまた、口を閉ざす。こんな言葉を口にしていいんだろうかと、迷っているのだろうか。
橋爪はただ、聴いている。
「でも、時々思うんです。テロを起こしている人間の言い分が、正しいときも有るんじゃないか、って。こんなに苦しめられている人達がいるなかで、こんなのうのうと、自分以外に価値がない、みたいに生きている人間たちが政治をやるべきじゃないって。なんで苦しんでる人達がこんな命がけで、死んでいったり、処罰されたりしないといけないんだ…って。」
うつむく葉山の方は震えていた。
「なんで神様はこんな世界を作ったんだろう。なんでこんな不公平な世界を…こんな理不尽なことばっかりの世界を………っ」
泣いて、いるのだろう。橋爪は、ゆっくりと口を開いた。
「確かにね。ここで起きるテロは、決して理不尽なものばかりじゃなくて、正当だと思えるものもある。」
そう。今まで橋爪が見てきたテロのなかにも、明らかに、正しいと思える言い分があったのだ。そして、その言い分はきっとただ抗議していただけでは相手にされなかっただろう。自分の意見を社会に繁栄するすべを持たないものの苦肉の策。それがテロでもあるのだ。人の命を奪う…その選択を、どれほどの覚悟で彼らは、選んだのか。
「ただ、それでも、人の命を奪ってもいい、なんて事には為らないはずだ。本当は、そんなことに為る前に、政府が手を打つべきだし、もっと国民の意見を聞くべきなんだ。」
それでもそうならない。だから、テロは終わらない。
「そして、議員の中にもいろいろな人間がいる。彼らにも家庭があって、大切な人がいるはずだ。だれもかれも、生きていくのに必死なのだと思う。」
自分達のことだけでなく、すべての人のことを考えることができれば、世界は平和になるはずなのに。
「テロの中にもおもしろ半分にやる奴らだっている。」
自分達の力を誇示したくて、おもしろ半分で。それで命を落とすなんて考えもしない。それが誰かの命を奪っているなんて知りもしない。考えもしない。
「そんな奴らを見ると、腹立たしくなるよ。」
自分の命の重さを分かっているのだろうか。命を奪うことの重大さをわかっているのだろうか。
「Dr.は、この仕事が嫌になったりしませんか?…この世界が、嫌になったりしませんか?」
黙って聞いていた葉山が、ちいさくちいさくつぶやいた。
「ない…といったら嘘になる。でも、これは私の選んだ道だ。死んだ方がましだと思うような奴はたくさんいるけど、実際に死んで誰も悲しまない奴はいない。テロをやっているやつも、議員も。だから、私は願うだけだよ。死に直面した人間が、自分と同じ立場に立った人間のことを思いやれるように。それが改善されるように。」
橋爪は葉山の肩を抱き寄せて、頭を撫でる。
「さっき葉山は神様はなんでこんな世界を作ったんだ…っていったよね。確かに私が神様だったらこんな世界は作らなかったと思うよ。私が悪魔でも、こんな世界は作らなかった。この世界は、まぎれもなく、私たち人間が作り出したものなんだ。私たちが望めば、いろんな方向にこの世界は動いていくはずなんだよ。」
優しく優しく。葉山の世界に、この新しい隊員の胸に少しでも新しいカゼが吹くことを祈って。
「だから、そのために、私はこの仕事をしている」

葉山は、しばらくしてから自分の持ち場へと帰って行った。晴れ晴れと…ではなかった。それでも、自分で答えを見つけようとしてみると、言ってくれた。そう、結局、答えを出すのも自分なのだ。

外の暖かい日差しを見ながら思う。
私が神様だったら、こんな世界は作らなかった。
こんな理不尽な世界。
私が悪魔だったら、こんな世界は作らなかった。
あなたと出会えるなんて幸福、絶対に、与えはしないだろう。
私たちは人間だ。
どんな世界を、望むのか。
そして、自分がどうなりたいのか。
それだけで、そう考えるだけで、世界は変わる。

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終わり〜です。いつもながら、中途半端なモノです。はい、すみません。あるアーティストさんの曲を聴きながら作製したので、それっぽい内容になってます。

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