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□respect
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respect


俺の父親は、なかなか家に帰ってこない。
別に両親が不仲なわけではない。いわゆる、仕事人間、というやつなのだ。
小さいころは、なんでお父さんは家に帰ってこないのとか、家族で出かけたいとか、母親にだだをこねては、困らせた。
中学に入って、反抗期になって、俺は父親がだいっきらいになった。家にも帰ってこない、帰ってきても寝てばっかり。つきあいだと言っては飲みに行く。連絡があれば、数分前に家に帰ってきたのだとしても、すぐに仕事に出かけていく。
どうせ、家族なんか大事に思ってないんだと思っていた。
浮気でもしてるんじゃないかって疑ってた。
高校になって、母さんに聞いてみた。
「なんであんなやつと結婚したの?母さん、泣かされてばっかりじゃん」
俺は知ってた。母さんが、俺が居ないところで、いつも泣いてること。あいつが仕事だと夜中に出て行くと決まって、仏壇の前に座って、祈っているのを知っていた。
いつも笑顔の母さんから、笑顔を奪うあいつが許せなかった。
「んー…」
母さんは困った顔をして、少し迷ってこういった。
「ほんと。なんであんな人と結婚したのかしらね。」
それから、笑って、
「でも、私はああいう人だから結婚したのよね〜。仕事が大好きで、誇りを持ってて、手を抜くことをしらなくって…。あぁ、この人と結婚すると、苦労するんだろうな〜、とは思ったけど、それでもいいかなと思っちゃったのよね。あなたにはかわいそうなことをしたかも知れないけどね。」
ごめんね〜、と照れたような笑いと一緒に、そう言った。
「でも、じゃあ、なんで泣くんだよ」
「そりゃね、そうはいっても、あの人に何かあったら…って不安になるときもあるのよ。あの人だけじゃない。あの人が仕事って事は、いろんな人が死の危険にさらされてるってことなの。それを考えると…ね。誰も傷つかないで欲しい、っておもうじゃない?」
「あっそ」
そういって、おれがそっぽを向くと、母さんは頭をぽんぽん、と撫でて、テレビに顔を向けた。テレビでは、ちょうど国会議事堂で発生したテロについての特番が流れていた。
そのテレビに、一瞬だけ、あいつの姿が映った。
なにか大声で指示を出しているような風で、真剣な顔だった。家で見たこともない。そんな表情。
そのとき、地面に何か陰が落ちた。卵大の大きさの、黒い影。あいつが、すごい速さでそれに気づいた。その物体は、どっかのテレビ局のアナウンサーのほうに。アナウンサーは気付いていない。
あいつ以外は誰も気付いていない。この映像を撮影しているカメラマンですら。
あいつは、ためらわず、そのアナウンサーを突き飛ばした。そして、その物体が、あいつの腕を直撃した。
何か、あいつの腕から、煙が出ている。まわりの人が、急いで駆け寄ってきた。悲鳴や、指示を出す声や、泣き出す人、びっくりして、動けなくなる人、騒然とする状況の中、あいつだけが、なぜか平然と、周りを一括した。
「落ち着け!俺は大丈夫だ!それよりも、どっからこれが飛んできたか、確認を急げ、TVの中継!お前らヶがしたくなきゃ、さっさとここから退避しろ!」

テレビの映像はそれで一旦研ぎ得れてしまった。
「あれがあの人の、仕事なんだよ。」
少し青い顔をしながら、母さんが言った。

少しだけ、あいつが…親父が大きく見えた。



--------------------------------------END

えっと…だれ、ってかんじでしょうが、内藤さんです。いえ、内藤さん宅の息子さん視点のお話です。そういえば、父の日だったなぁと思って、何かupしたいなと思いまして。思いついたままに書いてしまいました。
内藤さんって、私の中でこんなイメージです。あははっは。

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