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□trust you so much
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「なぁ、由弥、明日、出かけない?」
「え?」
「あぁ。明日休みだし。ずーっと出かけてなかったろ?」
「ほんとに?いいの?」
「当たり前だろ」
ニコッと笑って優しく、本木が手を握ってくれた。
いつも元気な本木がこんな風に優しく手を握ってくれると、恥ずかしかったり安心したりでドギマギしてしまう。
「俺だって、たまには一緒に出かけたいし」
こういうのにはなかなか馴れなくて、顔が熱くなるのがわかる。ずーっと片思いで、思いが通じるなんて思わなかったから。
こんな風に一緒に出かけたりすることができるなんて、未だに夢のような気がしてしまう。
「うん」
と返事を返して、
「じゃ、決まりな!」
こつん、と額をあわせて、お休みを交わす。最近本木はこれがお気に入りらしい。
「うん、また明日。」
軽く触れるだけのキスをして、名残惜しく手を離した。

今夜は、嬉しくて嬉しくて、なかなか寝付けない。自分でもおかしいと思うくらい、本木が誘ってくれる、ただそのことが、こんなにも嬉しい。
「早く明日に…ならないかな」
遠足の前の日の幼稚園児みたいに、わくわくしながら目を閉じた。

「ごめん、由弥!」
朝起きて、部屋の掃除をしていると、本木がやってきた。制服姿で。
「急に梅沢が体調崩したみたいで、代打で出なきゃ行けなくなって…」
本当に申し訳なさそうに、しゅんとして肩をおとしている姿が、不謹慎だけど可愛く感じてしまう。
「うん、しょうがないよ。無理させるわけにはいかないし。がんばって」
「……うん。ほんと、ごめんな」
「本当に、気にしないで。大丈夫だから。ね。」
本木の口が、何か言おうとして、やめたみたいに見えた。そのとき無線がなって二言三言受け答えをして
「じゃ、いってくる」
「ちょっと待って。ネクタイ曲がってるよ。」
本木はネクタイがいつまでたってもうまく結べないみたいで、いっつも少し曲がってる。だからいつも、本木が無事に帰ってくるように祈りながら、ネクタイを直すのが習慣になってしまった。
「はい」
ちょっと上を向くと、本木と目があって、二人で笑いあった。
「サンキュ」
そういって、本木は部屋を出ていった。

一人になって。出かける予定がなくなって、急に暇になってしまったことに気付いた。出かけて、何をしようと思っていたわけではないけど、何かする、っていう予定は時間にメリハリを付けてくれるみたいだ。
大好きな人との約束なら、なおさら。

「しょうがない。とりあえず、部屋の片付けをしよう。」

そう決めて、片付けに取りかかった。


「14時すぎか…」
あれから少し買い出しにいって、片付けを済ませるとお昼をとっくに過ぎた時間になっていた。おなかもすいたし、食堂に向かう。
食事時の時間を過ぎているから、だいぶん人が少なかった。
「野田」
「あ、Dr.」
聞き覚えのある声に、後ろを振り返ると、トレーを手に、Dr.が立っていた。
「今から昼食ですか?」
「あぁ。少し書類の整理に追われてて。野田も今から昼食か?」
「はい。今日はお休みを頂いてるので。」
相変わらず、Dr.はきれいな人だなと思う。花のように、みんなを和ませてくれる。そして力強く、励ましてくれる。
「良かったら一緒に食べないか」
「はい」


「野田は、もし大切な人に約束を破られたらどうする?」
「え?」
あまりにもタイムリーな質問に、今朝のやりとりを聞かれたのではないかと、心臓がひやりとする。
「あ、いや。本木にね、さっき聞かれたんだ。」
「本木に…ですか」
「あぁ。」
それって…。
(本木、出かけられなかったこと、気にしてる?)
「元気がなさそうに見えたから、声をかけてみたら、真剣な顔で聞かれたんだ。」
首をかしげて、「どうしたんだろうな」と心配そうに言うDr.の言葉に、とりあえず頷きながら、頭の中は他のことでいっぱいだった。
(本木、気にしてくれてたんだ…。)

大丈夫。
今朝本木に伝えたこの言葉に嘘はなかった。本木がでかけようと誘ってくれて、一緒に出かけようと思ってくれた。疲れているのに、貴重な休みの日を、僕と一緒にいようと思ってくれた。その気持ちが嬉しかったし、信じてる。
それに僕は、仕事が大好きで、一生懸命で責任感の強い本木が大好きだから、僕のことより仕事を優先したって、いいと思ってる。
それでも。
やっぱり、寂しかったのは本当だった。言葉にしたら、困らせるんじゃないかとか、心配になって、言い出せなかったけど…。
一緒に出かけたかった…っていうよりは、一緒に居る時間が、もっと欲しかっただけ。

そんな風に気にしてくれてたなんて、思いもしなかった。

「野田?どうかした?顔が赤いよ?」
「い、いえ、何でもないです。本木、早く元気になるといいですね」
あわてて首を振って、目の前にある食事に手を付けた。
「本当に。本木が静かだと、なんとなく隊が寂しいからな」


本木が仕事から帰ってきたら、少しだけ、話をしよう。
僕が君を信じてることを。
本当はとっても、いっしょにでかけることが楽しみだったんだ。
だから、一緒に出かけられなくなって寂しかったんだよ。
でも、仕事に一生懸命な君も僕の大好きな本木だから、寂しいけど、嬉しいんだよ。

それから…。僕は、いつもと同じように、君と顔を合わせて、君が元気でいることが一番幸せなだから、今日だって、いつだって、本木が元気でいてさえくれれば幸せなんだってこと。

どうやって話そう。うまく言葉にできるかな。いや、うまくできなくてもいい。
とにかく君に、この気持ちを伝えたいよ。
だから早く、元気にここに、帰ってきて。


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なんていうか…乙女な由弥くんのつもりではなかったんですが………。
言葉で伝えないとつたわらなさそうな本木と、言葉で表現せずに、相手を気にして気持ちを押し込めそうな由弥くんの間には、きっとこういう「表現しないことですれちがっちゃう」ってやりとりが些細なことでもあるのではないか、と思って。
当然みんなにあるんでしょうけど、きっとこういう中でまた新しい一面を発見するのかなーと思ったんですね。「あ、こういうことまで気にするんだ、こいつは」とか「あ、こういうこと、実は気にしてくれてたんだ」とか。本木って、こういうことの積み重ねでどんどんいい男になっていきそうだなぁ。
おつきあい下さり、ありがとうございました〜(>_<)

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