突破記念小説

□神子
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祈る。

祈りはいつか昇華されて、あの人の心を癒せるだろうか…一護は神子しか入ることの出来ない神泉に身を浸し、浄めながら思う。

この世に生を受けた時の託宣により、未来永劫この神殿からでることの出来ない神子。あらゆる人を差別することなく愛し祈りを天に還さなくてはならない自分が、こんなことを思っていると知られたらどうなるだろう。そう思っただけで、知らず知らずに自重するような笑みが浮かんだ。

引きずるほどに伸びた髪を無造作に払うと、泉に波紋が浮かび幾重にも滴を受けて跳ねる。やめておけというように一時、渦がおこるがそれも一護が手を翳すだけで止んだ。

愛しているというほど相手のことを知らず。ただ、二度ほど会っただけの強い陰りを持った眼の男。

知識はあれど、言葉を知らない神子は口から音を発することもなく頭まで水に浸かる。あの男のために、水の中でそっと囁く。神の音を、男のためだけに。






「なにをしている?」



ざばんっ。
物心ついた時より誰にも触れられたことのない腕をとられ、水から引きずり出される。
言葉がわかっていても、紡ぐ言葉を持たない一護は、首を傾げて相手を見た。なんでここにいるの?と尋ねるように。


「連れ去りに」


嘲笑するように唇を歪めながら男が言う。そしてそのまま抱きしめられる。自身が濡れることも憚らずに、強く。


「あぁ…」


体の芯から歓喜があふれ、目頭が熱くなった。連れて行って、あなたに罪を犯させてしまうけれど…その罪は自身が受けようと誓って。



神子は消えた。
世界は闇に侵されていく。犯罪が横行し、人心は乱れた。
それでも、一護は後悔などしていなかった。


「惣右介…」


愛しい人の胸に抱かれ、追っ手があるために定住できずとも。この人とともに生きることが出来るのだから。


「生きましょう」


藍染の言葉に頷き、口を合わせると歩き出す。ともにあるために。

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