藍染×一護 B

□涙が降る…
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ザーザーと流れ落ちる涙を受けて、歩いていた。風は無く、ただ滝のように流れ落ちていく。
けれど、一枚膜がかかったように、その感覚はとても鈍い。
胸に落ちた空虚感が、あまりにも痛くて天を仰いだ。
バタバタとあたる涙は、どこまでも服を、体を濡らしていく。
誰の涙なんだろう…
そんなことを考えながらも、夢遊病のようにひたすら足を動かす。
足下が流れる川のように見えない。
あぁ、まるで先が見えない未来のようだと思う。
あの人が裏切ったから、誰にも教えずに…裏切ったから。
「あぁぁぁぁ」
叫んでも、あの人には届かない。
俺の叫びなんか、あの人は聞いてくれない。
痛くてたまらないのに、怖くてたまらないのに、心を飲み込んでいく虚無感が追い討ちをかける。
『王よ…なぜ行かねぇ。心の底ではこんなにも、あの人を求めているのによ』
『求めてなんていねぇ』
そう反論したところで、この虚無感の方が正しい。
藍染惣右介。
名前を思い出すだけで、こんなにも胸が痛くて熱くなる人。
裏切り者で、誰にでも優しくて…真実誰にも優しくない人。
俺の秘密の恋人だった人。
『行きたいんだろうが』
『けど…』
『けど、でも、なんて言葉じゃ意味ねぇだろう、そんなに無意味なことくっちゃべるくらいなら、体を寄越せ』
侵食されていく。
俺じゃない俺が、あの人の側にはべる…愛される…愛を囁かれる?
許せるものか…
それを黙ってみていることなど、許せるわけがない。
『結論でたろ?』
虚無感が薄れ、消えていく。
そうだ…どんな奴だろうと許せるわけがないんだ。
あの人の側にいることを。
あの人を傷つける者を。
答えはとっくの昔に出ていたと言うのに、迷っていたがために、あの人に言葉が届かなかっただけだ。
「いるんだろ?連れていけ…惣右介」
雷が落ちる。
それを合図にしたように涙が勢いを増してこぼれ落ちた。
「やっと決めたんだね」
低く耳慣れた声が、ザーザーと響く音をかき分けて聞こえる。
気づけば濡れていたはずの服も髪も、抱きしめられた。
誰にも優しくない、俺にだけ優しい恋人。
「あぁ…待たせたな」
「わかっていたから、待てたんだよ」
君が私の元にくるってね…言葉にしなくてもわかった思い。
「あんただけを護る。ただ一人だけを」
もう一人の自分がほくそ笑んだ気がした。
でも、もう胸は痛まない。
大切なものを選んだのだから…
涙はもう降らない。

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