藍染×一護 B

□一握りの世界
1ページ/1ページ

いつもは閉じられた扉が開いた。
一護はそっと藍染の手を借りると、ベットから足を下ろし進み出る。
ギシリッ
音を立ててベットがしなる。
白一色以外に染められることのない床が、ヒヤリと裸足の一護をむかえる。
歩き出すと藍染が腰に手を添えて微笑んだ。
ここに閉じ込められてから、どれくらい経ったのか一護にはわからない。
ただ傍らには必ず藍染がいて、数時間の孤独にすら耐えられないように一護は変えられていった。
藍染と共に過ごす時間はとても愛しくて、互いのみを感じること嬉しかった。
それに藍染に浚われたわけではなく、自身の選択でここへと入った。
その選択に間違いはなかったのだと、藍染の笑う顔を見ながら思う。
一護の中に宿る虚の存在を厭い、消し去ろうとしてきた死神に身を委ねなくて良かったと心底思う。
あの時、藍染の手を取らなければ…
藍染がもしも虚に飲み込まれそうだった一護の手を掴まなければ…
この幸福な時は無かったのだと、人を愛するということを知らないまま消えることになっていたのだと、正直ふるえた。

触れ合う吐息も。

少し困ったように笑う顔も。

甘えるとたれてしまう目尻も。

きつく抱きしめて眠る藍染の眉間をこすることも。
知らないままだった。

この手の中の世界が全てで良かった。

そうなって良かった。

扉を抜ける。

そのまま連れていかれた先には甘い匂い。
一護は甘い甘い苺ジャムと焼きたてのスコーンを頬張りながら、藍染の膝の上で十刃の報告を聞く。
もう胸は痛まない。
一護の世界は、もう藍染しかいないから。

口元に残る苺ジャムを綺麗に舐めとると紅茶を飲み干した。
もう少しいるかい?と尋ねられたけれど、お腹がいっぱいになり眠い目を擦る。
甘えるように藍染の首に手を回し、眠る。
まどろみに沈みながら、見る夢もまた同じ人。

良かった。
良かった。
もう、藍染しか見えない。
これでもう、大丈夫。
あたたかい温もりを感じながら、一護は眠りについた。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ