突破記念小説
□浦原×一護
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「そろそろ機嫌を治して下さいよ」
頭を垂れ、こちらを伺うようにして浦原はへらりと笑った。こちらの怒りなど全て悟った上で、そこには触れないようにしてのご機嫌伺い。何もわかっていないと一護の腹は一層煮えくり返った。
「治るわけないだろ!俺は何なんだよ!」
鼻がぐしゅっとなるが、それでも視線は弛めない。付き合ってるはずなのに、この男ときたらのらりくらりとかわすばかりで自分を本当に恋人として扱ってくれなどしないのだ。
「馬鹿!年寄り!ろくでなし!」
思いつく限りの悪口をまくしたてる。
溜め息を吐き出しながらも浦原は帽子の影からしか、こちらを見ない。年上然として、まるで駄々っ子を見つめている母親のようだ。
「もういい!そっちがその気なら俺にも考えがある」
「へっ?」
「浮気してやる…別れてやる!」
浦原に背を向けて部屋から飛び出そうとした腕を掴まれ、引きずり倒される。
「いたっ」
「そんなことは許せませんねぇ」
先ほどまでのにやついた笑顔は消え、怖いまでに真剣で苦悩に満ちた顔が目の前にあった。とっさのことに受け身もとれず、そのあまりの思いの強さに息をのむ。
「冗談でも言って良いことと悪いことがあるんスよ。そんで今回のは悪いほうです」
口をパクつかせたまま蛇に睨まれた蛙のように微動だに出来ない一護を嘲笑うように、唇をギリギリまで寄せた。
「お仕置きはどうしましょうかね」
ふっと息を吹きかけ、怯える一護に笑いかける。そして無造作に帽子を脱ぎ捨てた。
「んっ」
そんな一挙一動にすら反応してしまう腕の中の子供にほくそ笑みながら、そのまま観察する。上気した頬に、潤んだ瞳に、噛み締め過ぎて赤く熟れた唇に欲情しつつもそれ以上は何もしない。
一護の体を奪い去ることなど簡単だ。
だから、しない。
体だけの関係になんてなりたくないんっスよ…アタシは…一護に聞こえないように胸の中で呟く。
「浦原さんっ」
怯えながらも寄り添ってくる温もりを大切に抱き締めて、目を閉じる。
失うのが怖い、この手はあまりにも無力で手を差しのばしても救うことなど出来なかったから。
「黒崎さん、愛してますよ」
ぴくりと震える肩をより強く抱き締めて髪に頬をうずめる。
それだけで…今はまだ。