突破記念小説
□病の行く末
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病院の一室。
個室の真っ白な壁。
外は春を謳歌する蝶がふわふわと飛んでいく。
ベッドの脇に置かれた目覚まし時計がカチコチと音を立てて、時間を進行していく。
入院してからすでに1ヶ月ほど経過した。
病名は不明。
突然、体中を激痛が駆けめぐり…刀で斬られたような蚯蚓腫れが隈無く体表を侵していく。
助けてという叫びに、誰も何もできない。
鎮痛剤も麻酔も効かない、睡眠薬さえも。
そう、消毒液の臭いにも、夜中感じる孤独感にも激痛後のぐったりと動けない状態にもなれた頃、あいつは俺の前に現れた。
「こんにちは黒崎一護君。今日から君の担当になる藍染惣右介です、よろしく」
柔和な表情と低く腹に響く声。
かけられた眼鏡の奥には優しそうに細められた眼差し。
見慣れた医者という人種の中で、なんだか特異な存在だなと思った。
そう、それだけだったはずなのに…気づけば俺はいつも彼を探している。
あの笑顔を。
時折見せる険しくも悲しい表情を。
なにが先生を苦しめているのか、知りたかった。
言葉をかけようとする。
でも、胸につかえた何かがそれを拒む。
いってはいけない、つかまってしまうと冷や汗が背中を伝う。
「何が怖い?」
いつ死ぬともわからない、伝染するかもしれない病を抱えて…触れたいと思うことは罪だ。
それに激痛に磨耗された心はこれ以上の痛みを望んだりしない。
だから…もう見ない。
夢を見よう、もう夢しかないのだから…