突破記念小説
□求めし者
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午前零時。
ビルの闇間に色濃く影が蠢いた。
大きくなり、小さくなりぶよぶよと中心に圧縮されていく。
車の排気ガスが空気を汚していき、月は隠されたためか。
月の光さえ地上には届かない。
人々の喧騒が嘘のように聞こえなくなり、無音が辺りを埋め尽くす。
圧縮が終わると徐々に輪郭を変え、それは人型へと変貌していった。
それは闇色のコートを羽織り、残酷な笑みを浮かべながら一歩を踏み出す。
人々の喧騒が戻り、止まっていた時が動き始めた。
人々が往来する道にそれが足を踏み入れる。
圧倒的な存在感が、そのすぐにでもひれ伏し従いたくなるような空気がその存在からは感じとられた。
見惚れ、足を止めるのは男女関係なく…
だが、誰もその孤独を知るものはいない。
その存在は探していた。
闇の中ですら輝く存在を、たった一人の伴侶を。
長い長い孤独の歴史は、享楽と惨劇に満ちていて疲れ果てていた。
だから、こんな場所でこちらに生気を吸い取られていても気づかないような輩に、興味は全くない。
「我が伴侶はいずこに」
日本語ではない響きは、すでに失われた言葉。
その存在は、自身の気配を消し去り周囲の記憶を隠滅した後…消えた。
唯一の存在を見つけ出すために。