story

□ショートショート
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過ち

タカシは鏡に反射する太陽光を横目に、ガムのへばりついた駅の階段を降りた。

1年ぶりに踏み締める生まれ育った場所。タカシはなつかしくてもあの事は思い出さないようにしていた。

駅前から続く長い桜の道の遠くにいるキョウコをタカシはすぐに見つけた。

タカシに気付いて手を振るキョウコに、タカシは気付かないふりをしていた。
色鮮やかな桜の街路樹を3本通り過ぎたとき、とびきり鮮やかな過去と、1年前の自分の心が少しだけゆれた出来事がタカシに浮かんだ。

木の皮を剥がすように僕はキョウコを傷つけてしまった。
そう繰り返すタカシの高校生活はそれからすぐに終わり、東京で新しい春を過ごすために、タカシは忙しそうに最後の3月を過ごした。キョウコを忘れようとするその姿をキョウコも知っていた。

卒業式から会うことのなかった2人を、みんな心配していた、あんなに仲が良かったのにと、口を揃えて連絡をくれた。
けれども、キョウコからの連絡は1度もなかった。

「タカシ君は、東京でやりたいことがあるみたいだから…、私たちはもう終わったの。」
遠慮がちに言った言葉をタカシは本人からではなく友人から聞いただけだった。

何を話そうか、タカシはそれを考えて向こうにいるキョウコに遠い距離をゆっくりと近づけた。1年間の長く短い時間と、離れていた東京とここの距離も確実に。
キョウコは足速に春の風に吹かれながら、同じ道を向かってくる。

自分から連絡をしておいて、何から話していいかわからないタカシには、東京からもう戻らないと思っていた1年前の強さはなくなっていた。

ふと、タカシの足が水たまりを踏み、静かにポチャンと波をうねらせた。

タカシは一瞬立ち止まり、静かにゆれる水面に映る自分を下から見て、1年前の心がゆれた自分に重ねてから、今の真っすぐな心で再び歩き出した。

「キョウコー!」

おもわず叫んだ。

そして何かを象徴するかのように、光でぬるく温まった穏やかになっていく波に桜の葉が一枚、さらりと浮かんだ。
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