story
□ショートショート
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友達
白い光の中、白い息を。
冷めたコンクリートの上に友達と2人きり。
ゴルフ場の明かりが眩しすぎると、カナイは目を閉じてからコバヤシを見た。
天高く白い息を吐き出しているコバヤシと、震えたように身体を揺らすカナイは、ゴルフ場の前の道で座ったまま。
さっきまで電柱を蹴りつけていたコバヤシの足をカナイは気にしている。
もう真夜中の4時30分。
「もう帰ろうよ。」
カナイの口から白い息に変わる言葉がでて、それでもコバヤシは天を見たまま。
「薄暗い紫の空の向こうから、まだぼんやりとしてる太陽が迎えにくるよ。」
太陽が好きなコバヤシの心の闇に光は届かない、カナイも知っているその闇にある大きな宇宙、その形は膨張しつづけて、光の速度を超えてしまっている。
「もう帰ろうよ。」
カナイは目を閉じたまま、2度目の言葉を。それでもコバヤシは意識を天に預けたまま。
「大きなネットに包まれたら、そのまま眠りそうだから気にしちゃいけない。」
眠る事を嫌うコバヤシに安息の時間はなく、カナイも知っているその時間は遠い昔のビッグバンの瞬間にはじけたまま。
時々上を見上げてるカナイが諦めかけて、また問い掛ける。
「何かあったの。」
コバヤシは何も言わず、あいかわらず上に、白い息を吐いている。
「こんな明るい道の歩道のコンクリートで、2人座ってたら、何か変だろう?」
ゴルフ場の明かりが眩しすぎると、カナイは目を細めてからコバヤシをまだ気にしている。
「気にしなくていい。前と同じ事が起きただけだ。」
コバヤシはそれだけで、今度は黙って下を向いたまま。
コバヤシは2度目のビッグバンが起きた事をカナイに今初めて知らせた。コバヤシの心に2つの大きな宇宙ができてしまった。カナイはその2つの宇宙を流れ星になって渡り、冷たい大きな無の空間を痛いほど感じていた。
星がもう1つ流れた。熔けだした心の涙が渇ききってる道に、ぽつりと落ちた。
「ありふれた言葉でそっと慰めてくれ、もう帰るから。」
コバヤシの声が静かなわけじゃなく、この道が静かなだけ、街はあんなにも賑やかなのに。
無音の道に無駄な気持ちが交錯しては、天に昇っていく。それを2人とも気付いて、恥ずかしそうな気持ちをコンクリートの上に置いたまま。
やがて太陽が塊になり、はっきりとコバヤシとカナイに姿を見せた。
「カナイなら、こんな気分の時は何をする?」
コバヤシからカナイに。
「さあ、お前を呼び出して道に座ってるかな。」
カナイからコバヤシに、友達から友達に。そしてまたコバヤシからカナイに。
「太陽を見ると変な気分になるんだ。また今日も1日、同じ事を繰り返してしまうから。」
好きなものまで、信じれなくなることは不思議じゃなく、好きなものに好きと伝えることが大切だったのかも。
それができたらなら、ビッグバンも起きなかった。
「そうだね、この道に太陽は似合わないしね、もし俺が太陽を殺したら、罪になって警察に捕まるかな?」
カナイはゴルフ場のネットの隙間から指を入れて、太陽を隠してみせた。コバヤシは立ち上がり半分だけ笑ってみせる。
「くだらない、ゴルフ場の明かりだけだと、やっぱり眩しすぎる。もう帰ろうか。」
コバヤシは気持ちを取り戻し、道も自然な明かるさになっていく。そして2人恥ずかしくて置いたままの気持ちはやっぱりそのまま置いていった。
熔けだした心の涙を、足で踏み付けるコバヤシの後ろで、カナイはすっと意識を天に向け、友達の真似をしてからかってみる。
置いた気持ちは景色にとけていった。
まだコバヤシの中にたくさんの星が残ってる、それを流してしまったら穴が残るだけ、傷は綺麗な方がいいだろう。
コバヤシの2つの宇宙にたくさんの星がいつでも輝いている。