story
□幸せな家庭
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明日の新聞
「彼が怪しい、ですか?」
俺は何をやっているんだ。
「おう、そうだ。お前は後ろで見てたろ?あの目、普通の目じゃない。」
俺は何て事をしてしまったんだ。
「彼は何も知らないと思います。きっと、だってお母さん好きみたいですし。」
何を焦っているんだ、俺は悪くないんだ…。
「まあ、確かにな。」
俺は酔っていたんだ…。酔っぱらって渡してしまっただけだ…。
「なんでもない、忘れてくれ、もう行っていいぞ。」
俺は何てことをしたんだ…。あの袋を見ず知らずのサラリーマンに渡してしまった。大事な袋だ、もしあれが無くなったら俺は死ぬ。
息子が住所を喋った時にやっと思い出したよ、昨日俺はあの家の玄関にいて、袋を渡してしまったことを。
あのサラリーマン、袋を預けた昨日のうちに自分の妻を殺したんだな。
目つきの悪い息子も怪しまれてたが、あの家を本格的に調べられたら俺は終わりだ…。
言い逃れはできない。クビを切られる。今年で30だ、会社を辞めたら妻と子どもはどうなる。それどころか刑務所生活だ。
絶対にだめだ!
「どうしたんだ?」
同僚が話しかけてきた、今は仕事中だった。
「なんでもないよ。」
その晩、俺は仕事を終えてアパートに帰り、服も着替えず自分の部屋の椅子に座った。
絵に描いたような幸せな人生だったな…。ほんの1ヶ月までは。こんな俺は妻と子どもと一緒にいる資格はないな、自首するか、もう逃げられない、いずればれる。
「あなた、どうかしたの?入ってもいい?」
部屋をノックして妻が部屋に入ってきた。
「どうかしたの?顔色悪いわよ。」
「いや、大丈夫。ちょっと仕事でミスしただけだ。」
「そう…、こういう時は何も言ってあげられないけど、きっと大丈夫よ。あなたはどんな事があっても負けない人だから。さあ、お夕飯食べましょう。早く着替えてね、子どもも待ってるから。」
負けない人、か…。
そういえば昔から負けたことなかったな、どんなに苦しくてもちゃんと立っていたな。なのに今は椅子に座り過去を振り返っている。
「おかえりパパ!」
子どもは元気がいいな、妻の料理もうまい、幸せだ。
「ちょっとは元気になった?」
「パパ元気ないの?」
本当に幸せな家庭だ。
「いや、パパは元気だよ。これ食べたらちょっと行ってくる。ミスした分とりかえせるかわかんないけど、やってみるよ。」
「もう元気みたいね、あんまり無理しないで早く帰って来てね。クリスマスなんだから。」
「なるべくそうするよ、でも遅くなると思う、先に寝ててくれ。」
「パパ、今日の夜サンタさんくる?」
「ああ、いい子にしてるんだぞ、サンタさんは絶対帰ってくるからな。」
「帰ってくるってなに?パパ?」
必ず帰ってくるさ、今日は25日だ。それに俺は負けない人だから。
明日の新聞に載るかな、いや、サラリーマンの自殺なんて大した記事にもならないか。