◇silver◇

□始まりの行方
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目の前に信じられない人物が現れ驚愕に目を見開く。しかも今居るのは夜の自宅、万事屋でも戦場でもない。
何故この人がここに…?と頭の中でその疑問ばかりが過ぎる。しかし動揺は見せまいと唇を結び相手を睨んだ。


「安心しな。今日は殺りに来た訳じゃねぇ」

心を読まれた様に放たれた一言。その言葉に再び驚くも、どうやら本当にそうらしく殺気は微塵も感じられない。それでも
警戒は解けず、額から汗が吹き出す。

「じゃあ、何の用ですか…高杉さん」
「ほぉ、俺の名前覚えてるたぁ思わなかったな。褒めてやるぜ」
「それはどうも」

言いながら縁側に腰を下ろし、目で僕もそこに座れと促す。仕方なく腰を下ろすと高杉さんはフイッと視線を逸らし、煙管を吹かし始めた。それに合わせ、僕も少しずつではあるけど自然と警戒が解けて行く。
(一体何なんだ…)
この間をどうすれば良いのか解らず、しばしの沈黙が流れる。
すると時折、無言ながら相手の視線がこちらに向けられている事に気付いた。

「えーと…何ですか?」
「少し確認しに来ただけだ」
「確認?意味が解らないんですけど」
「てめぇは解んなくて構わねぇよ。俺が確認してるだけだからな」
「はぁ…」

余計に訳が解らなくなり、僕は気の抜けた返事しか出来ない。その姿すらもジッと見て来るもんだから、居心地が悪くて困った様に目線を泳がせた。
すると高杉さんが立ち上がる。僕も自然とその姿を目で追った。

「時間もねぇし、確認も出来たし、そろそろ帰る」
「はぁ…」

ゆっくり目の前に立ち自分を見下ろす高杉さんをぼんやり見つめ、未だ訳が解らず間の抜けた声で再び空返事をすると、不意に顎を軽く取られた。そして直ぐに重なる高杉さんの唇。僕は一体何が起こったのか理解出来ず、しばらく呆然とその状態から固まっていた。
数刻してから唇がゆっくり離れると、漸く我に返り思わず右手を相手に向けて振りかざす。
けれど相手の方が圧倒的に素早く、あっさりその手を取られる。

「ああああアンタ何て事すんですか!」
「ククッ…顔が赤いぜ?」
「っ!うるさい!」

グッと力を篭めて振りほどこうにも敵わない。そこまでがっしりしていないこの身体に、一体どんだけのバカ力持ってんだ。そう心の中で悪態をつきながら口許を手で拭う。

「これが俺の確認の答えだ。解ったかよ?」
「わ…解る訳ないでしょうが!」
「なら後はてめぇで考えな」

ニヤリと笑みを浮かべながら掴んでいた手を離し、僕を一瞥してから踵を返しその場から立ち去る。
その背中を見遣りながら未だ何度も口許を拭い、上がった熱を振り払おうと道場へ足を向けた。




一方の高杉は、機嫌よさ気に煙管を吸い込みながら既に新八の屋敷から離れ人気の無い夜道を歩いていた。フッ…と煙を吹かし口許の笑みを濃くさせる。

「まさか一度見ただけで気に入るたぁな…。ククッ、次会った時は攫っちまうか?それも悪かねぇな」

ポツリと独り言を呟きながら、夜の深い闇へと消えて行った。




-END-
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