◇silver◇

□君と僕のお付きあい?
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「ほぅあっ!」
なんて間の抜けた声を上げたのは、本来居るはずのない人物を目の前にしたから。引き戸に手を掛けたまま固まっていた新八に「やぁ!」と、爽やかな笑顔と声音で片手をひらりと上げて挨拶をしているのは、同じ万事屋仲間である神楽の兄…神威だった。しかし兄の神威は敵のはず。慌てて逃げ様と身を翻し逃走を謀るも、あっさり首根っこを捕まれ肩に担がれる。


「ちょっ…降ろして下さい!」
「やーだ。俺君とお話したいから」
「は…話?」


完全意見無視の半強制なこの状態に、話もクソもあるか!とツッコミたいが、相手が相手なので突っ込めず。正直、下手に突っ込んだらシバかれるだけじゃ済まなそうで怖い。諦めた新八は一つ盛大な溜め息を吐き出した。


「あの、わかりましたから…降ろして貰えませんか?」
「んー…逃げない?」
「勿論逃げませんし、ちゃんと話も聞きます」
「本当?」
「はい」


新八がきっぱり告げた事で信じた様子らしく、神威はその場に新八を降ろした。一気に緊張がほどけたのか、力が抜けた様にその場にへたりこみ真後ろの壁に寄りかかる新八。

「で、話聞いてくれるんでしょ?」

にこりと笑みを浮かべて目線を合わせ様としゃがみ、新八に向けて小首を傾げて見せる。どうやら本当に話をしたいだけの神威に、もしかして自分は殺されるのではないか…と心配していた不安もようやくとけた。そして相手の問いかけに小さく頷く。


「はいあの、話って何ですか?」
「あのね…」

続く言葉は一体何なのか。新八は無意識のうちに生唾を飲み込み神威の言葉を待つ。当の神威は至極楽しそうに笑みを浮かべたままだ。

「俺、君の事気に入っちゃったみたいなんだよね。気に入ったって言うか好きなんだけど」
「はぁ。……はいぃっ!?」
「だからさ、俺とお付き合いしない?」
「…………は?」


神威の飄々と言ってのける様に新八はついていけず、眉を寄せて相手を見つめた。その様子に「あれ?理解してないの?」ときょとんとさせ再び小首を傾げる。


「えーと、お付き合いって…お友達ですよね?」
「ん?何言っちゃってんの?」
「いやいや、何言っちゃってんのはこっちの台詞なんですけど」

ずいずい迫り来る威圧する様な笑みに両手を顔の前に出し、壁に背を預けたまま上手く距離を保とうとする。するとその手を取り、神威は更に顔を近付けた。どんどん迫る相手の顔に焦りを感じ、新八は思わず声を上げる。


「近い近い!顔近いっ!」
「あーん惜しい」
「惜しいじゃないわ!何してんですか!」
「可愛い顔だったから、ちゅーの一つでもと思って」
「要らんわそんなの!」

思わず突っ込みを入れ相手の頬を押さえつけ何とかガードするも、神威は寧ろ楽しんでる様子。


「で?お付き合いしてくれるよね?」

相変わらず人の良さそうな笑みを浮かべたまま問い掛け、ズイズイと迫っていた顔を少しだけ離した。


「いや、何をどう間違えたのか知りませんけど、僕男ですし。お付き合いとか無理…」


さぁ言い終えようと言う時、新八の顔の横を神威の拳が横切った。そしてその衝撃でもたれていたはずの壁が、ガラガラと音を立て粉々に崩壊する。その一撃に新八は表情を一気に引きつらせ、留まる事を知らない勢いで冷や汗を垂らした。
当の神威は相変わらずニコニコさせ、拳に付いた埃を軽く払っている。


「付き合ってくれる…よね?」


小首を傾げて可愛らしく聞いて来るものの、明らかに語尾に高圧的な言い方を含んでいる。

「ととと…とりあえず、お互い良く知らないんで、まずお友達にしましょう!ね?そうしましょう!」


精一杯の最善策を捻り出し何とか言葉にするも、頭の中では「誰か助けて〜!」の叫びで埋め尽くされていたのだった。




これからの日々に一抹の不安を感じつつ。




-END-
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