小説 モノスペース
□モノスペース 本編
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遭難 三十四日目
今日のイリサは寝不足だった。
昨日は早すぎる風呂に入って、昼食を作って、夕食を作って、何も無いまま、何も聞けないまま自室に戻った。 いつも寝る時間には達していない頃合いに、ベッドに横になって、やってくる様子のない眠気をただひたすら待っていた。
イリサは寝付きの悪い方ではない。寝る時間を決めているとはいえ、蒲団に入って少し落ち着けば、すぐに眠りに落ちる方だ。
ベッドの上であれこれ考えているなんて、おかしな感じだった。
…考えているというよりも、風呂から上がってきたラナンキュラスの足が真赤くなっていた姿が何度もちらついた。
…なにがあったの?
1.波にさらわれた
2.実はかなづちだった
3.海中生物に襲われた
…ちゃかしてみたけど、さっぱり盛り上がらなかった。
家に着いたラナンキュラスは風呂に入り、昼の間にさっさと濡れた書類を作成し直すと、いつも通り畑の手入れに出かけて行った。
夕食を食べ終えた後は、疲れたからと早々に休んでしまった。
時より、自分の腕を見つめてぼーっとしていた。
今朝から先ほどまでのラナンキュラスの姿が断片的にイリサの中で行き交う。
書類と髪の毛、砂浜と笑顔、真っ赤な足。
いつものようにご飯はお代わり。
腕を見つめる。
真っ赤な足。
ぼーっとしている姿。