小説 モノスペース
□モノスペース 本編
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不機嫌なラナンキュラスに気まずい気分になりながらも、お茶に誘った手前、イリサは台所に新しい食器を用意しに向かう。台所に入ったイリサと入れ違いにジュゴが玄関を開いて中に入ってきた。
あいかわらず笑顔をラナンキュラスに向けたまま。
ジュゴは食卓に歩み寄ると、ラナンキュラスの向かいに腰を下ろした。
その様子を半ば睨み付けるようにラナンキュラスは見つめている。
「…まだ、だめだと言ったハズだわ。」
「せかしているつもりは無いよ。」
ラナンキュラスに根負けした様に、ふーっため息をついてジュゴは表情をここで初めて崩した。
“降参”と手振りで示して見せる。
「私が甘いのを君はよく分かっているよ。」
やかんとカップを両手にイリサが台所から戻ってくる。
和らぐ気配の無い場の空気に緊張しながら、カップをテーブルに置くと、茶葉の入ったポットを手前に引き寄せた。
「…そういえば、ジュゴさんはどちらの灯台に勤めているんですか?」
間違ってはいないが妙なセリフだ。
まるで何気なく相手の会社や出身地を訪ねるような言い草だが、内容は灯台守限定だ。イリサは自分の言った事を恥じるように、そんな言い訳を頭の中で考える。
社交の場に出る機会が多かったイリサは会話の橋渡しをする行為が自然と身についていた。
けれど、今ほどこの特技が役に立たない場面は無い。
「どちら…うん、どういえば通じるのかな?」
ジュゴはその質問に少し勿体振る仕草をした。
質問者の方ではなく、ラナンキュラスの方をじっと見て、少し遊んでいる様にも見えた。
「私の灯台は、ここだよ。」
イリサは耳を疑った。
その答えの意味が分からなかったのと、予想範囲外だったからだ。
流そうと思うが隙が見当たらない。イリサの頭は何かが詰まって破裂寸前な気がした。
「ここって…え?ぁあ?」
「私はもともとここで灯台守をしていたんだ。そうだな…ラナンの師匠と言えば分かりがいいのかな?」