小説 モノスペース
□モノスペース 本編
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頭痛がする。
イリサは頭を腕に凭れて、顔を手で覆った。
ジュゴはまた笑顔を見せる。先ほどとは違って、不気味に見えた。
ラナンキュラスは目を見張っている。ジュゴから目をそらさず、次の出方を見逃すまいと。
止まった思考を振るい動かそうとイリサはラナンキュラスの話を思い出そうとしていた。
(師匠…そうだ、同じ話を数日前に聞いたばかりだ。)
繋がる単語は見つかったものの…つじつまが合わない。
(分かりがいい?どこがだろうか…。)
ラナンキュラスの師匠は”亡くなった”のだ。それが今、ここでお茶を啜っているという。
つじつまが合わない話は、合わせればいいのだ。
「…ラナン、また僕をからかったの?」
イリサの思考は、ラナンキュラスへの不満に変換するしかない。
抗議のつもりでイリサはラナンキュラスをひと睨みした、つもりだった。
ラナンキュラスはイリサに見向きもしない。
いつになく真剣な面持ちでジュゴを見つめている。
「…ラナン?」
イリサは全身がぞくりと何かに撫で上げられるのを感じた。
明白な合図だ。
触れてはいけない世界の、はずだった。
何か発しようとしたが、震えた唇から息が漏れる音が鳴っただけだった。
「相手にしなくていいわ、イリサ。ふざけているだけよ。」
「今更それは無いんじゃないのかな。」
「ふざけないで!」
思わぬラナンキュラスの罵声に、イリサは自分がすっかり呆けてしまっていたのに気づく。
怒鳴られた本人はニコニコと愛想の良い顔のままでラナンキュラスを見つめる。