小説 モノスペース
□モノスペース 本編
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遭難 三十一日目
ラナンキュラスがいつも通り、農作業を終えて帰ってきた。
しかしその表情はいつになく険しい。
「…農作業がこんなに困難だって思ったこと、初めてだわ。」
今日は、昨日とはうってかわって、嵐の前触れのように天候が荒れていた。
その事を言っているのだと悟ったイリサは、自分にはいつも通りに感じる風の音に耳を澄ました。
ラナンキュラスは畑から取ってきた野菜を、テーブルの上に並べる。
「あれ?なんか、まだ収穫には早いんじゃない?」
「風で落ちちゃったのよ。食べれなくはないでしょ。」
「まあ、そうだけど。」
「イリサもすっかり主夫ね。」
「誰がさせてるんだよ。」
まだ言う…と、イリサは呆れ混じりに肩を落とす。
ラナンキュラスは並べた野菜をまた手に取ると、椅子に腰を下ろし、まじまじと眺め始めた。
「しかし、何かを育てるって、こんなに大変なことだったのね。」
「何を今更。」
「いや、なんとなく思っただけ。」
「……そういや、ラナンがここに来た頃から農作業はラナンの仕事だったの?もしかしてそれもなかなか譲ってくれなかったとか。」
「いや。そんなことないよ。ここに来てすぐ私がやった仕事だね。ていうか、奪った。」
「だろうね。」
イリサが手伝ってもこれだけは譲らないことに、きっとラナンキュラスなりの何かこだわりがあるのだと思っていたイリサは深々と頷いた。
「そういえば、ラナンはいつここに来たの?」
「昨日からずいぶん質問責めね。」
「あ、いや。…うん。そうだね。」
イリサは聞きすぎたのだと思い、少し自分を咎める。