小説 モノスペース

□モノスペース 本編
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「…マジで?」
「あんたはまだここに来て一ヶ月だし、街にも一回くらいしか行ったことないだろうから、耳にするきっかけが無かったのね。」
「ああ…だから初めて街に行ったとき、街の人にやたら引き止められたんだ…。」
「そんな事があったの?そういえば、私も昔言われたね。」
「うん…街に住むようにすすめられた。」
「…何で受けなかったの?」
「別に…困ってなかったから。」
「気の毒に。」
「それを知ってたらすぐさま移住してたよ。」
「これからはしないの?」
「…もう慣れたし。落ち着いちゃったし。」
「灯台守を継ぐ決意は堅いのね。」

 満足げに、ラナンキュラスが微笑む。
この笑顔に弱いのだろうか?、イリサはたじろぐ自分を立ち直らせて、否定する言葉を探す。

「だから…。」
「波風に負けず強く生きていた者が、ある日あっさりと消えてしまうの。…ドラマよねぇ。」

 遮られた言葉にイリサの思考は一旦止まり、そして苦笑いを浮かべた。

「ノンフィクションのね…。どこが楽しい話なんだよ。」
「彼も、その中の一人だったわ。」
「ああ…そうか。」

 一瞬にして、昨日のなんとも言えなくなる空気がイリサを取り囲んだ。
ラナンキュラスがその空気を感じ取ってる気配はない。ただ在った事を当たり前のように話している様だ。
 亡くなってまだ間もないハズの”彼”の事に触れても、ラナンキュラスは特になにも感じることはないのだろうかと、イリサは気を回す事が先行してしまう。

「いつか私もその中の一人になるのかと思うと、辛いわねぇ。」
「やっぱ辛い話なんじゃないか。縁起無いこと言わないでよ。」
「まぁ、縁起で生きられれば、そんな楽なことないわ。」
「そんな事ならさ、安全になるよう整備とかしようと思わないの?」
「そんな金どこから出るというのさ。」
「被害者が灯台守だけにおさまるからいいってこと?」
「そぉーね。保険はあるけど、受け取れないしね。」
「そんな。協会に訴えてもいい事じゃない?」
「それを了解の上で働いてるとも言えるでしょ。ここに来てそれを了解の上働く奴なんて、それほど訳有りな奴が多いって事よ。」
「はぁ…。」
「あんたも、海で遭難して、親とはぐれたなんて、充分訳有りよね。」
「一緒にしないでよ。」



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