小説 モノスペース

□モノスペース 本編
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「…これって、水晶?」

 灯台から戻って来ると、イリサが遠巻きにガラス玉を見つめながら、テーブルに着いていた。

「ただのガラス玉よ。」
「高そうな物が無造作に置いてあるんだもん。びっくりしちゃった。何に使うの?」
「商売道具よ。」
「商売道具?…灯台に必要な物なの?」
「灯台に来る前の話よ。」
「え?灯台守になる前は何してたの?」
「胡散臭い占い師。」
「占い師ぃ?え?それって…こう水晶で何かが見えますっとかっていうやつ?」

 イリサが手で宙を撫でる。

「って、これ水晶じゃないのか。」
「信憑性が増すかと思って。」
「うわっ、理由も胡散臭い!」
「結構当たるって評判だったのよ。それで生計を立てていたのだから。だって私には、未来が見えてたの。」
「え?なんで?」

 イリサは素っ頓狂な声を上げる。
話を信じてるのか、信じていないのかラナンキュラスは判別が出来なかった。

「なんでかは疑問に持たなかったわ。だって生まれつきそうだったから。」

 ラナンキュラスはそう答えるしかなかった。
本当に知らないのだ。
物ごころつく前からそうだった。

「他人の未来を言い当てるのは、子供の頃は気味が悪がられたかな。だから、何も言わなくなった。他人の事も、自分の事も、見える未来そのままを受け止めて来たわ。だって、未来は避けられないんだもの。避けようとする事すらそれが未来だったのよ。」



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