小説 モノスペース

□モノスペース 本編
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 それがラナンキュラスの生きた人生そのものだった。

「私の人生はつまらないものだったわ。灯台守になるまではね。」
「僕の未来も見てよ!」
「言ったでしょう?灯台守になる前の話だって。今はもう見えないわ。そもそも見ていたら、イリサをこんな所に引き留めたりはしないわ。」
「そうなの?」
「たぶんね。」

 ニヤリとラナンキュラスは笑う。
ラナンキュラスは上着を脱ぐと、椅子の背もたれに掛け、イリサの向かいに座った。

「過去なんてどうでもよかった。後悔もない。経過でしかなかった。時間ほど正確で、歪なものはないわ。顧みる事もおよばなかった。それが、そうでもない日が来るなんて思いもしなかったわ。」
「…後悔してるって事?」
「そうね。後悔という言葉が当てはまる状況をここ最近、幾度も体感してるわ。」
「どんな?」
「うーん、そうね…。」

 ラナンキュラスの頭の中に、これまで起きた沢山の事が思い浮かんだが、うまく話をまとめる自信が無かった。

「今まさに、こんな話しなきゃ良かった、的な?」

 イリサに話してもしょうがない話ばかりだ。
解決する糸口も見えない事ばかりなのに、ただの愚痴になってしまう。

「ごめん、そんなつもりじゃ無かったんだけど…。」

 イリサが申し訳なさそうに、下を向く。

「ああ、その辺の細かい所は軽く受け流してくれていいから。」



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